2005 Fiscal Year Annual Research Report
ガリレオの学術論争における「説得の技術」の変容およびバロック期の言語表現との関係
Project/Area Number |
16520195
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
小林 満 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (50242996)
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Keywords | ガリレオ / バロック |
Research Abstract |
本研究の目的は、いくつもの学術論争によって鍛えあげられて、『偽金鑑識官』から『二大体系についての対話』への移行の中で大きな変容をこうむったガリレオの「説得の技術」の発展の経過と特徴を、時代の文化的背景、特にバロックとの関連といった視点を中心に、解明していくことである。2年目の今年度は、ガリレオが天文学的発見を最初に公表した『星界の報告』(1610)から『太陽黒点論』(1612)の刊行とほぼ同時期に出版された『水上にある物体あるいは水中で動く物体に関する論議』(1612)を中心に分析を行なった。 この『論議』は1612年6月のパオロ・グアルドやジュリアーノ・デ・メディチに宛てた書簡にも明らかなように、ガリレオが「先端的知識を市民が共有できることを目指して俗語で書く」という行為を明確に意識して書いた初めての著作の1つであった点で非常に重要である。『星界の報告』以降に行なった天文学上の発見の公表が遅れている2つの理由のうちの1つに、市内(フィレンツェ)の知識人たちとの間で行なった「水中での物体の浮沈をめぐる論争」についての論文を書く必要があったからだとガリレオは『論議』の中で述べている。この書簡形式の著作の受取人であるトスカーナ大公コジモ2世の示唆によって「(書くことは)虚偽から真実を、見かけの根拠から実際の根拠を識別させるための非凡な手段であり、議論している者のどちらか一方が、もしくは頻繁に起こるように両者ともが、過度に熱くなったり、過度に声を荒げたりして、互いの理解をさせられなくなってしまう、口頭での議論よりもはるかに優れている」のだから書くのだと、この著作の必要性を説明している。口頭での論争から論文での論争へと移行することで冷静に細かい議論の積み上げをすることを目指しながらも、あくまでも自分のクライアントである大公に理解していただくための書簡という形を用いているのである。
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