2006 Fiscal Year Annual Research Report
ガリレオの学術論争における「説得の技術」の変容およびバロック期の言語表現との関係
Project/Area Number |
16520195
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
小林 満 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (50242996)
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Keywords | ガリレオ / バロック / マリーノ |
Research Abstract |
本研究の目的は、ガリレオの「説得の技術」の発展の経過と特徴を、時代の文化的背景、特にバロックとの関連といった視点を中心に、解明していくことであるが、3年目の今年度はガリレオの著作に関しては「クリスティーナ大公母宛書簡」(1615年)を細かく分析することに重点を置いた。先行する「ベネデット・カステッリ宛書簡」(1613年12月21日付)の勢いのある非常に簡明な文体と比べると、同じ題材を扱っていながら筆の運びが鈍いという印象を拭えず、かなりの量の文章を節に分けずに続けているので、読み手は相当な忍耐を必要とする。自然と聖書という神による2つの書物の関係という一般論から具体的な「ヨシュア記」の1節の解釈にいたるまで、主にアウグスティヌスを引用しながら慎重に論を進めている。聖書の解釈という彼にとって非常に微妙な領域に関わる見解を公的に明らかにするため、弟子のカステッリに宛てたときの軽快さとは全く異なる慎重な文体で敵の攻撃に対応しているのである。 バロックに関しては、詩人ジャンバッティスタ・マリーノの『アドーネ(アドニス)』(1623年)を分析した。マリーノは「詩人の目的は驚異である…驚かすことのできない者は馬にブラシをかけに行け(馬丁にでも鞍替えしろ)」という発言でバロック芸術の持つ主要な特徴の1つを言い当てたことでも有名だが、この作品の中でもまさに「驚異」という副題が付された第10歌に、望遠鏡とガリレオが月の姿を間近に見せてくれる「驚異の道具」とその発明者として登場するのである。また、ガリレオの『星界の報告』を典拠として書かれたいくつかの詩節がそれに先行して存在していることからも、マリーノがガリレオの天文学的発見を科学の領域を超えた1つの「事件」としてとらえ、ガリレオの著作を直接の典拠として自作に取り入れていることが分かるのである。
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