2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16520198
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
森本 浩一 東北大学, 大学院・文学研究科, 教授 (20182264)
|
Keywords | 虚構 / コミュニケーション / ミメーシス / 詩的効果 / 物語性 |
Research Abstract |
虚構は,実在への指示をサスペンドしたモードで作り出され操作される特殊なタイプの表象であり,その効果を論じるために機能と構造という二つの観点から考察した。機能については,近年の進化心理学的な研究を取り込みつつ以下のような知見を得た。虚構はいわゆる「メタ表象」の一部であり,「心の理論」や様々なシミュレーション(例えば,行為の目標やプランの想定),反事実的条件法などの近接した表象と同様,表象される内容の真理値を留保し,世界に関する直接的な信念形成から「分離」する。虚構は適用範囲(スコープ)がゼロの純粋に仮想的なメタ表象として,心が最も適応的な表象を探索する上での重要なツールとなる。メタ表象的な探索の成功が報酬感として経験されたものが美的快であり,虚構はアートの原基的形式であると言える。 虚構の構造の中心にあるのは「物語」形式である。通常の認知そのものが理由に基づく行為の連鎖という物語的表象構造を持つ。つまり事実に関する概念的表象は,出来事を物語的な継起構造のもとでメタ表象的にリハーサルする心的能力の形成と同時的ないし相補的な関係にあると考えることができる。物語の普遍的な形式と,内容に伴って生じる個別的差異の関連については,比較ジャンル論的見地からの導入的な考察を行った。 現実認知の大部分は報道・伝聞などに基づく間接情報である。個々の情報の信念と仮想への「区別」それ自体が,虚構的なメタ表象能力の発動と相関関係にある。コミュニケーションを可能にする「心の理論」そのものが仮想的計算のもとで成立する点を考えれば,虚構は人間の社会性の基盤である。
|