2005 Fiscal Year Annual Research Report
普遍文法における量化詞解釈の言語心理学的研究--生成文法理論と言語習得
Project/Area Number |
16520269
|
Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
伊藤 益代 福岡大学, 人文学部, 助教授 (10289514)
|
Keywords | 量化表現 / 言語習得 / 総称量化詞 / さえ〜 / 日本語 |
Research Abstract |
本年度の研究では、日本語獲得の初期段階にある子供(4才児-6才児,約30名)を対象に、次の2種類のデータを実験によって収集した。(1)再帰代名詞「自分」や空代名詞をどのように解釈するのか、そして、それらの先行詞が量化表現である場合どのような解釈の違いが見られるのか(調査のため、動詞句削除文を利用)。(2)解釈上の処理コストを軽減した場合(cf. Reinhart 1999)、量化表現「さえ」の含意の解釈について、16年度の研究結果に違いが見られるのか。以上の2つである。そして、実験結果を分析することにより、これまで英語児を対象とした先行研究において報告されていた経験的事実や、日本語における再帰代名詞や空代名詞自体に関して、新しい興味深い知見が得られた。具体的には、以下の点が明らかになった。 (1)日本語の空代名詞のもつ3つの解釈、a.不定性、b.統語的束縛変項、c.語用論的同一指示、の知識を日本語児はもつ。 (2)再帰代名詞「自分」が量化表現でない名詞句を先行詞とする場合は、正しく、「自分」の統語的変項束縛の解釈ができる。このことは、「自分」が統語的変項束縛の解釈を要求するということを、被験児が知っているということを示す。しかし、「自分」の先行詞が量化表現である場合、4-5才児は、「自分」の統語的束縛変項の解釈は、偶然のレベルの正答率であった。この4-5才児による文法性判断が示すことは、再帰代名詞「自分」が量化表現を統語的変項束縛の先行詞としてとることが困難である段階が、日本語文法の獲得の初期段階に存在することを示す。つまり、量化表現によって量化されたそれぞれの場合に対応する唯一性、つまり関数的解釈を「自分」がもつという知識を、4-5才児はまだ有していないことを示す。 このことは、代名詞解釈についての英語児を対象とした先行研究(Chien and Wexler 1990)において、統語的変項束縛の可能性がない文、例えば、Is every bear touching her?に対し、大人と同様、子供が代名詞非同一性の判断を示すといった報告と幾分、相容れない。っまり、英語児の非文法性判断が示すことは、束縛原理Bによって代名詞herがevery bearを先行詞としてとることができないという知識と同時に、代名詞herがevery bearによって量化されたそれぞれの場合に対応する唯一性、つまり関数的解釈をもたないことを、英語児が知っていることを示している。単文と動詞句削除文との違い、目本語における空,及び再帰代名詞の点から、これらの違いを論じた。 (3)取りたて詞「さえ」のもつ「尺度の含意」は、16年度の結果同様、解釈が困難であった。(以下、略)
|
Research Products
(1 results)