2006 Fiscal Year Annual Research Report
古代日本語における述語形容詞化用法としての名詞修飾機能に関する統語構造論的研究
Project/Area Number |
16520276
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
釘貫 亨 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (50153268)
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Keywords | 受け身 / 過去分詞 / 形容詞的用法 / ヴォイス / 名詞修飾 / 連休修飾 / 自動詞 / 他動詞 |
Research Abstract |
完了辞リとタリは万葉集において専ら自動詞に接し、しかち名詞修飾に集中的に分布する。これは、両辞が物事の状態を標識する役割を担って登場したことを示唆する。特に「動詞タル・名詞」の連語型には動詞部が格関係を脱した形容詞的用法(例・荒れたる都)が発達していた。これに対して「動詞ル・名詞」にはこの種の格離脱の例が存在しないことが判明した。過去の動作作用の結果が継続していることを表示する形容詞的用法は、リ・キ・ケリ・ツ・ヌなど他の過去情報を持つ助辞群を用いず排他的にタリを介入させることが明らかになった。上代語の「動詞タル・名詞」の連語型には、他動詞が介入できない。これに他動詞を配置するとすれば自動詞に転換する受身助辞の接続が必要であるが「ユ・ラユ」の機能は貧弱で上代では使い物にならなかった。動作作用の結果継続を示す用法に、多数を占める他動詞を動員できないことは、上代語の表現上の制約であった。文法機能の高い「ル・ラル」が成立した中古にいたって「他動詞(ラ)レタル・名詞」の連語型が漢文訓読と平仮名散文において成立した。伝統的語脈を保守する和歌にはこの用法は観察されない。しかし「他動詞(ラ)レタル・名詞」の連語型には、格離脱を件う形容詞的用法が近世に至るまで発達しなかった。近世期に俳句のような極限的な短詩型文芸において伝統的な被害の受身の語脈の枠内で「去られたる身」のような形容詞的用法が成立した。明治期に欧語における非人格的なモノを主語とする被害受身ではない受動文や形容詞的過去分詞を当初、日本人は能動態による意訳で対処した。「魅入られたる人」のような形容詞的用法は、欧文翻訳の洗練の過程を通じて明治後半期に日本語文の中で成立したと考えられる。このようにして「開かれた大学」「約束された土地」のような被害の意味ではないモノを非修飾名詞とする他動詞資源の形容詞的方法が日本語文の中で可能になった。
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Research Products
(1 results)