2005 Fiscal Year Annual Research Report
鎌倉時代語コーパスの作成を目的とした聞書、注釈類の発掘とデータベースの構築
Project/Area Number |
16520286
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
土井 光祐 駒澤大学, 文学部, 助教授 (20260391)
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Keywords | 中世語 / 聞書 / 注釈 / 高野山 / 宥快 / 古辞書 |
Research Abstract |
今年度は、予定通り高野山関係の資料を中心に調査、考察した。主な重要資料として高野山大学図書館寄託本の金剛三昧院蔵「大日経疏傳受抄」十六冊と、同「十住心論聞書」一冊とが注目され、それぞれについての分析結果の一端を学術公刊論文として発表した。 「大日経疏傳受抄」は、性厳房宥快(一三四五〜一四一六)が應永二十二年(一四一五)二月末〜四月上旬の一ヶ月余に亘り、高野山寳性院において行った際の聞書と、大楽院信日(?〜一三〇七?)の「抄物」とを素材として、宥快の高弟である快全(?〜一三六四〜一四二四)が編集したものである。国語史的価値は多方面に及ぶが、中でも大量の古辞書逸文が注釈の一助として引用されている点が特に注目される。改編本系類聚名義抄逸文は蓮乗院本に近いが、むしろ当時の高野山に独自の本文を有する一本が伝承していたと推定されること。利用された古辞書には情報の内容によって優先順位が認められること。字音注、義注は大広益会玉篇が最も重視され、二番目に広韻、三番目に一切経音義であって、改編本系類聚名義は専ら和訓の情報が重視され、字音注、義注は顧みられなかったこと、等が確認される等、中世における古辞書受容の実態という側面からも新事実が確認された。 「十住心論聞書」は、応永二十五年(一四一八)七月八日〜八月二十日の四十四日間に亘って高野山迎攝院において行われた十住心論の講説を基盤とするもので、編者並びに書写者は實乘房快雅である。講師は行厳房宥信(〜一三四三〜一四三二)が務めたものと推測される。本資料の最大の特徴は、複数日に亘って連続した講説の度に快雅によって筆録された、生の聞書がそのまま現状本に装丁された文献と目される点である。字音語を含む仮名書き自立語が非常に多く、抄物書、略字、片仮名の合字も目立ち、片仮名左側に付された濁点と右肩濁点とを混在させる年代確実な資料としても注目される。漢字音におけるオ段長音の開合の混乱、ハ行下二段活用のヤ行化、助動詞「ベ」、副詞「イヅレトシテモ」等の使用が見られ、新たな中世語資料として重視すべきものと考えられる。
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Research Products
(2 results)