2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16520374
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
保坂 高殿 千葉大学, 文学部, 助教授 (30251193)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
和泉 ちえ 千葉大学, 文学部, 助教授 (70301091)
|
Keywords | 伝統主義 / 古代地中海文化圏 / ローマ帝政初期 / 宗教政策 / キリスト教迫害 / 死生観 / ソクラテス裁判 / 天文学・幾何学 |
Research Abstract |
今年度は古代地中海文化圏における伝統の形成と変容の様相について、基礎資料を駆使して種々の観点から詳細に検討した。 1.ローマ帝政初期の伝統的な宗教政策が三世紀のセウェルス朝および他の軍人皇帝時代に至っても変化せず、基本的には治安政策の一環として位置づけられることが明かになった。それにより240〜250年代のデキウス帝期において宗教政策は帝国主導の政策に転換したとの従来の定説には多分に疑義が生じたため、再検討の必要性が生まれた。この点は「セウェルス朝期のキリスト教迫害」(発表済み)および「デキウス帝のキリスト教迫害」(来年度発表予定)と題する論文で論証した。 2.キリスト教の死生観がローマ帝政期を通じて旧来のモーセ律法の影響を受けずに異教的な性格を維持し続けてきたことを、教父文献の他、教会会議資料、殉教者および聖者伝、墓碑銘、そして地下墓地の図像を使って学術的に跡づけることができた。その成果は『ローマ史のなかのクリスマス』および『多文化空間のなかの古代教会』の二冊の著作で公刊した。 3.また、古代地中海世界における学問伝統の形成に関する一考察として「天空と地下の事象を探究する」知識人達が不敬罪の咎で告訴された前五世紀後半のアテナイの状況に焦点をあて、ソクラテス裁判を当時の学問伝統の形成の局面という観点において解釈する試みを提示し論文にまとめた(「再考ソクラテス裁判:天空の事象に関する探求と不敬罪を巡る素描的試論」発表済み)。天文学、幾何学が不敬罪の論拠として遡上にのぼる背景には、これらの学問が、伝統的国家宗教の正当性を唱える潮流とは相容れない世界観を提供する分野として危険視されたという事由に加えて、シケリア・南イタリアと深い関係を持つ天文学者・幾何学者達とアテナイの政治的関係が関与することを指摘した。天文学・幾何学は、その後アテナイを離れて、ヘレニズム世界の地中海を舞台に学問伝統を形成していったのである。
|
Research Products
(4 results)