2004 Fiscal Year Annual Research Report
近現代中国における欧米キリスト教宣教師の対ムスリム布教に関する歴史社会学的研究
Project/Area Number |
16520429
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Keiwa College |
Principal Investigator |
松本 ますみ 敬和学園大学, 人文学部, 助教授 (30308564)
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Keywords | 中国イスラーム復興 / キリスト教の対ムスリム布教 / エキュメニカル運動 / エスニシティ / キリスト教宣教師 / 福音派 / 宗教の共存 |
Research Abstract |
1910年のエジンバラ世界宣教会議を期に、エキュメニカル運動の担い手たちは、対ムスリム布教は世界のキリスト教化を実現するためにも危急の事業であるとの共通認識を持ち始めた。その中で、インドにつぐ大きなムスリム人口をもつとされた中国のムスリム布教は、大きな関心を集めた。なぜならば、植民地主義のこの時代、他の大多数のムスリムはキリスト教宗主国の支配下にあったが、中国は違ったからである。 中国継続委弁会というエジンバラ会議の意志を引き継ぐ会議が中国に設立され、小委員会としてムスリム委員会が開設され、対イスラーム論駁書、宣伝パンフレットの刊行の他、宣教師のムスリム居住地への派遣などが行われた。1926年には、漢口に、穆民交際会なる団体が設立され、対ムスリム布教を専門的に扱った。ムスリム布教を扱う宣教団体は、千年王国論を信じる原理主義的福音派に属するものがほとんどで、一方的にイスラームを間違った宗教と決め付け、キリスト教への帰依を促すものであった。対ムスリム布教を担う諸宣教師の理論的指導者が、エジンバラ会議で副議長も勤めた強硬的対ムスリム布教の専門家、サミュエル・ツエマーであった。それゆえ、中国ムスリム側の反感と反論にはすさまじいものがあった。 ムスリム側は、キリスト教の論戦に備えるべく、イスラーム復興運動を活発化させた。クルアーンの翻訳を含む教義研究、アズハル大学への留学生派遣、イスラーム師範学校の設立、各種啓蒙的雑誌の発刊などがそれにあたる。それは、キリスト教側から付けられた「奇妙、間違い、野蛮」の宗教というレッテルをはがし、自らの宗教を振興させ、エスニシティを確立させていこうという作業でもあった。 イスラームとキリスト教の激しい論戦の中が繰り広げられたものの、決定的な衝突が引き起こされなかったのは、両サイドに宗教の共存こそが平和につながると信じ、相手の宗教に対する尊敬を表明した宗教指導者がいたことが大きい。1930年代の北京で活躍した馬松亭アホン、YMCAセクレタリーのライマン・フーヴァーがそれらにあたる。
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Research Products
(2 results)