2007 Fiscal Year Annual Research Report
近現代中国における欧米キリスト教宣教師の対ムスリム布教に関する歴史社会学的研究
Project/Area Number |
16520429
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Research Institution | Keiwa College |
Principal Investigator |
松本 ますみ Keiwa College, 人文学部, 教授 (30308564)
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Keywords | 東洋史 / 民族学 / 宗教学 / イスラーム / キリスト教 |
Research Abstract |
19世紀末から20世紀前半にかけて欧米キリスト教宣教団が世界宣教運動の中で中国布教を意図したことはよく知られている。彼ら/彼女たちは中国西北でムスリム(Hui)を「発見」し、中東における対ムスリム布教のノウハウに基づき、宣教活動を行った。宣教師のキリスト教の優位を説く布教活動は当然のことながら、ムスリムの反対するところとなったが、その一方でムスリム社会全体を改革運動に引き入れることになった。中心となったのは、漢語を母語とするムスリム知識人である。その内容は以下の通りである。1.西欧の近代的精神をイスラームも原初から持っていることを証明すること。2、伝統的神秘主義(存在一性論)の否定と、神学体系の再構築、クルアーンの翻訳3.中国国家への撞着と近代教育への機運の高まり、4.アズハル大学を中心としたイスラーム近代思想の影響下にあったこと。キリスト教優位を示すキリスト教側と受けて立つイスラーム側には緊張が走ったが、結局、致命的な対立には至らなかった。それは、寛容を旨とする神秘主義的伝統が残っていたことと、世界宗教を信仰するものとしての矜持をムスリム側が抱いたことが大きい。さらには、キリスト教側の挑戦を受けて、イスラーム側がより宗教研究にいそしみ、論駁のための思想体系を築き上げたことも大きい。しかし、存在一性論は、時代遅れの役立たず、とみなされてしまうことで、明代以降のイスラーム伝統思想は、次第に思想の表舞台から消え去ることとなった。改革開放以降、中国ではイスラーム覚醒が目覚しい。その教義内容はほぼ、民国時代にキリスト教の挑戦にさらされたイスラーム改革派が作り上げたものに等しい。国家主義への迎合、近代教育とイスラームとの調和の志向は、世俗主義国家体制との緊張をはらみながらも、今のところ成功しているといえる。
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Research Products
(5 results)