2004 Fiscal Year Annual Research Report
共和政期ローマ貴族の「家」認識-貨幣イコノロジーの分析を手がかりに-
Project/Area Number |
16520432
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
安井 もゆる 岩手大学, 教育学部, 助教授 (70241502)
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Keywords | ローマ史 / 貨幣史 / ローマ共和政 / ノビリタス |
Research Abstract |
本年度は、諸機関に所蔵のローマ貨幣史の諸文献(H.A.Grueber, Coins of the Roman Republic in the British Museum ; E.Babelon, Description historique et chronologique des monnaies de la republique romaine ;E.A.Sydenham, The Coinage of the Roman Republic ; M.H.Crawford, Roman Republican Coinage)を調査し、共和政期において家門を誇示すると思しき図像をピックアップし、リストを作成した。その結果、前189-180年より前50年まで(内乱期以降を除く)全部で70種類のものが見いだされた。時期的には、初出が前2世紀前半、ただし一例にとどまり、残りは前130年代以降となっている。このことが何を意味するか、特に前2世紀前半が前180年代の一例のみで、次が前130年代まで見いだされないのはなぜか、そして前130年代以降に頻出するようになるのはなぜか、大きな問題である。今後の課題としたい。図像の内容の詳細についての検討はまだ途中であり、次年度に継続したい。ただ本年度の大まかなサーヴェイによると、これらはほぼ、(1)祖先の軍事的功績、(2)祖先の民事・宗教的功績、たとえば穀物供給、法の制定、建築事業、神殿の奉献など、(3)祖先の祭司職、(4)神々や王に由来する血筋、のいずれかを描いたもの、との類別が可能と思われる。数的には、(1)が多数を占めている。このことはいわゆるノビリタスの「勲功貴族」的な基本的性格からして、十分予想されたところであるが、しかし同時に(3)(4)のような要素が混入している点が注目される。純粋に「血」が貴族性を保証したところの、初期ローマのパトリキーや中世の封建貴族とは異なるところがノビリタスの特質であるが、そこにまた前者と同性質の要素が併存しているところが、ノビリタスの複雑性であり、興味深いところと思われる。
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