2005 Fiscal Year Annual Research Report
ソヴェト=ロシアにおいてネップ体制に及ぼした1921年飢饉に関する研究
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16520437
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
梶川 伸一 金沢大学, 文学部, 教授 (50194733)
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Keywords | ソヴェト=ロシア / ネップ / 飢饉 / アメリカ援助局 |
Research Abstract |
本年度はこれまで蒐集したおもにロシア公文書館資料の分析と考察を行った。またこれらに含まれる地方資料は極めて具体的で有益であるが、地方の特殊性が反映されるために、全体像を見失うおそれがある.そこで、各地方から出された非ボリシェヴィキ系の新聞のマイクロ・フィルムを購入し、これらの情報と公文書館資料の突き合わせを行っている。この作業は現在も進行中であり、特に目新しい結論が出ているわけではない.またこのような作業の中で不足している資料を補完するために、モスクワの公文書資料館での調査と資料収集を行う予定であったが、これまでの資料整理が思いの外時間がかかったために、予定を変更し、1921年飢饉の実態とその支援活動で大きな役割を果たしたアメリカ援助局の活動を通して飢饉に関する資料調査と蒐集のために、Stanford大学Hoover Institutionと同大学図書館での資料収集を行った.今回は、特にこれまで未見であった同大学Green Library所蔵の飢饉に関するコピー不可のいくつかの重要文献を閲覧調査することができた。 これらの資料によって現在まで判明したことは、特にシベリアとウクライナという従来は穀物生産地域でも、中央ロシアと殆ど同じ構造によって21年からすでに飢饉が発生していたという事実である。そしてこれら生産地方の飢饉対策で特徴的なことは、穀物の調達をこれらの地方で重点的に行うために、中央ボリシェヴィキ権力によってこれら地方の飢饉の認定が遅れ、そのために不必要に飢饉の彼害を拡大させたことであった.例えば、ウクライナでは、ザポロジエ県では22年1月ですでに住民の80%近くが飢餓状態にあったにもかかわらず、22年1月にならなければ飢餓地区の認定がなされなかった.この意味で、そこでの飢饉はまさに人為的である。 いわゆるネップ体制に認められる自然発生的な市場の展開と飢饉との関連について、残念ながら明示的資料を現在まで発見するに至っていない。飢餓民の拡大によって本来ならば地方的市場取引に限定されたはずの「新政策」が、結果的に全国的市場の成立を促したとの仮説は依然として仮説に留まり、今後はこの関連を実証する資料を蒐集することである。
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Research Products
(2 results)