2006 Fiscal Year Annual Research Report
ドイツ第三帝国下の「ユダヤ人キリスト教徒」の動向に関する研究
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16520442
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
長田 浩彰 広島大学, 大学院総合科学研究科, 助教授 (40228028)
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Keywords | ユダヤ人キリスト教徒 / 混合婚 / 混血者 / ユダヤ人迫害 / アイデンティティ / ナチ第三帝国 / 非ナチ化 / ホロコースト |
Research Abstract |
本研究は、祖父母の代に3人以上ユダヤ教徒がいたために、第三帝国下でユダヤ人とされた「ユダヤ人キリスト教徒」の動向に関する研究である。 1、平成16年度末に外国旅費を利用してドイツを訪れた際に、ルートヴィヒスブルク州立文書館とベルリン工科大学反ユダヤ主義研究センターで新たに収集してきた「ユダヤ人キリスト教徒」エルヴィン・ゴルトマンに関する遺稿史料や非ナチ化裁判記録の分析を平成17年度に引き続いて行った。彼は一時期、SDやゲシュタポに民情報告者という形で協力していた。 本年度は、ゴルトマンの非ナチ化裁判の初審が終了する1947年9月以降からその控訴審(1949年4月)、さらに、彼の歯科医師免許再獲得から、引き戻し初審(1950年11月)、その控訴審(1951年9月)までの史料を整理し、分析を加えた。ゴルトマン自身は、すでに45年5月にシュトゥットガルトのドイツ警察の手で逮捕され、8月には近郊のルートヴィヒスブルクのアメリカ軍抑留者収容所に送られている。そこでの模範的な態度をアメリカ側の収容所長に評価され、47年1月末に釈放された彼を、ドイツ側が再度逮捕・留置して、この非ナチ化裁判初審は始まった。 初審では、刑事裁判での検事に相当する公訴人側が求めたとおりの「重罪者」評決が出た。控訴審では、当事者ゴルトマン側に有利な供述書が提出されたにもかかわらず、また、公訴人側も第2グループである「有罪者」へと罪状認定を引き下げたにもかかわらず、評決は「重罪者」で動かなかった。かなり厳しい評決であった。必要以上に高い倫理・道徳性が、当事者に求められていた。その理由は、女性の非ナチ化のケースと比較することで説明できる。 裁くドイツ人の側には、第三帝国下でユダヤ人を見殺しにしたという負い目と、「女性的」でもある「無辜の被害者」という「ユダヤ人イメージ」が存在した。そのイメージから外れる「対ナチ協力者」という嫌疑だけで、事実如何の吟味の前に、ゴルトマンは断罪されたのである。非ナチ化裁判・控訴審の問題性がうかがえた。 公職に復帰するための「潔白証明書」を入手するための非ナチ化裁判という、形骸化された非ナチ化のイメージとは全く異なる様相が、この事例からうかがえた。裁判記録からは、同時に、第三帝国下で彼の置かれた困難な状況が具体的にうかがえた。これらの点は、日本西洋史学会第56回大会部会(千葉大学2006/5/14)で報告した。 2、安田女子大学図書館が所蔵するマイクロフィッシュAkten der Parteikanzlei der NSDAPのなかから、混合婚や混血者に関するナチ党文書史料を選び出しながら、現在収集・整理中である。
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