2006 Fiscal Year Annual Research Report
アレクサンドロス大王神話の形成と東地中海世界の政治的文化的環境
Project/Area Number |
16520453
|
Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
森谷 公俊 帝京大学, 文学部, 助教授 (60183662)
|
Keywords | アレクサンドロス大王 / マケドニア / フェニキア / 東方遠征 / シリア |
Research Abstract |
今年度は、アレクサンドロスの遠征と神話化におけるフェニキアとシリアの役割について研究した。その結果、フェニキアの最有力都市テュロスに対する7か月におよぶ攻囲戦のさい、アレクサンドロスがテュロスの陥落を予言する夢を見たことが大王伝で重視されており、大王と半神の英雄との関連づけにおいてフェニキアが無視できない役割を果たしていたことが確認できた。また大王によってシドンの王に任命されたアブダロニュモスは、大王への感謝をこめて自分の石棺に大王と彼の戦闘をレリーフで描かせた。ここには石棺という西アジアの形式のなかに、ギリシア風の技法を用いて、戦闘と狩猟という東西両世界にかかわる主題が採用されている。それゆえこの石棺は、大王治世の政治史だけでなく、美術史・文化史の観点からも注目すべき作品である。 本課題に関連して、夏に3週間トルコ・シリアへの調査旅行をおこない、イッソス会戦後のマケドニア軍の経路を追ってトルコのアンタキヤからシリアへ入り、アレッポ・ダマスカス方面に進んだ。その過程で、マケドニア軍が一時滞在した古代フェニキア都市マラトスの遺跡を訪問したほか、ユーフラテス川中流域にも足を伸ばし、アレクサンドロスの渡河点に近いと思われるアサド湖付近を実地検分した。さらにアレクサンドロスの後継将軍の一人セレウコスが建設したアパメイアの大規模な遺跡を訪れ、セレウコス王国の中心都市の優れた立地条件を確認することができた。当初の予定ではシリアに次いでレバノンを訪問し、古代フェニキアの主要都市を順次見学するはずであったが、7〜8月におけるイスラエルのレバノン攻撃のため断念せざるを得なかった。 以上により、アレクサンドロスの東方遠征の前半においてフェニキア・シリア地方が果たした役割を、大王伝と遺跡の両面から具体的に究明できたことが本年度の成果である。
|
Research Products
(1 results)