2004 Fiscal Year Annual Research Report
13世紀ケムブリッジシァにおける在地権力構造の総合研究
Project/Area Number |
16520455
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
朝治 啓三 関西大学, 文学部, 教授 (70151024)
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Keywords | 封建国家 / ケムブリッジシァ / 国王 / 諸侯 / 在地領主 / ハンドレッド陪審 / 裁判権 / 巡回裁判 |
Research Abstract |
13世紀イングランドにおける封建国家の権力構造を実証的に解明する一例として、1260年代のケムブリッジシァを取り上げ、14あるハンドレッドごとに国王、特権諸侯、在地領主、住民団体のそれぞれが公権力の行使にあたって、いかなる役割分担をしていたのかを、裁判記録をもとに解明する作業を行っている。本年度はそのうちのひとつ、ステイン・ハンドレッドにおける巡回裁判の判例研究、および在地領主のひとつであるイーリ小修道院の当時の荘園裁判記録の古文書学的解明を行った。文書は現在ロンドンのパブリック・レコード・オフィスとケムブリッジ大学図書館にあり、補助金を活用して現地へ赴き、古文書を転写、解読した。その結果判明したのは、これまで標準とされてきたヴィクトリア・カウンティ・ヒストリ第10巻の説明は、分類番号の改編により今では使えなくなっていること、年代同定が間違っていること、転写した範囲では巡回裁判記録との突合せにより、もっと正確な実態解明が可能であることである。このことを『東西学術研究所紀要』に公表した。荘園領主の荘園住民に対する裁判権は、従来は下級の刑事裁判権を含むとはいうものの、いわゆるコート・バロンと呼ばれる民事事件のみの裁判権であるとみなされてきた。しかし上記文書を見る限りでは、イーリ小修道院領では、修道院長は、強盗、暴行、窃盗に関する裁判権を実行している。一方国王が実施する巡回裁判では、その裁判官は修道院長法廷での裁判結果を覆す例は皆無である。国王裁判権と現地領主裁判権とはすみわけを行っていた。さらに荘園法廷では、裁判官たる修道院のステュワードは隷農の団体である村と自由民の団体である十人組との申告をそのまま受けいれ、処罰の内容も住民団体の報告を追認するだけであった。現地支配の要としての強圧的な在地領主権という理解が誤りであることは明らかである。 これをもとに、ハンドレッド全体の裁判権の分担状態を解明する予定である。
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