2005 Fiscal Year Annual Research Report
役務提供契約概念の構造解明(フランス法研究を手がかりとした基礎的・理論的考察)
Project/Area Number |
16530050
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小粥 太郎 東北大学, 大学院・法学研究科, 教授 (40247200)
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Keywords | 契約法 / 民法 / 思考形式 / 役務提供 / 専門家 / 職業倫理 / 名誉 / 概念法学 |
Research Abstract |
1 概要 引き続き、フランス法を参照しつつ、役務提供契約概念の構造解明を続けている。 3年計画の2年目が終了したが、おそらく、全期間を通じて最も重要となり、今後の研究の方向性に関するヒントをも含む論文(下記の2参照)を執筆公表した。 2 「法的カテゴリの機能に関する覚書」論文 前年度の研究の過程で、フランス法における役務提供契約概念の分析により、フランス契約法における思考パターンの特徴のようなものが存在するのではないかとの感触を得ていた。すなわち、法学における最も基礎的な課題のひとつとして、法的思考とはどのようなものかを明らかにするというものがあるが、フランス契約法、とりわけ役務提供契約の研究により、抽象的にではなく、非常に具体的な、法的思考の型のようなものが浮かび上がってきたことから、「法的カテゴリの機能に関する覚書」論文を執筆公表した。フランス契約法においては、法と事実を峻別し、事実と区別された法の世界における法的概念(カテゴリ)の階層構造などを前提とした、非常に形式的な思考枠組みが観察されたのである。本論文によって、契約法以外の法分野との対比、フランス法だけでなく日本法の問題の検討などへと、研究を発展させるための基本的な枠組みが得られた。もっとも、契約法の具体的問題の研究から、民法学における思考形式へと関心がややシフトしてしまったという反省もある。民法学における思考形式については、次の大きな研究課題とすることとし、平成18年度は、従前の計画どおり、具体的な契約法上の問題の研究を進めたい。 3 「専門家の責任と名誉」論文 2とは別に、役務提供契約上の具体的問題の研究の一環として、専門家の契約、具体的には弁護士、医師らが、顧客と締結する契約の研究を行った。専門家の契約は、顧客の信頼に応えるために、専門家に高度の注意義務を課すなどといわれることがあるが、この専門家の注意義務を担保するひとつの実定法上の工夫として、専門家の職業倫理がある。フランス法上の伝統的な職業倫理の考え方は、顧客によりよいサービスを提供するための手段ではなく、自己目的的--職業倫理を遵守することは専門的職業人の名誉を維持するためであって、顧客のためではない--である。さらに、職業倫理を機能させるために、職能団体が大きな役割を果たすことも確認された。本論文は、役務提供契約概念の分析にとって、専門家の名誉という視角が、興味深い帰結をもたらすことを明らかにしたが、さらに、近代の法体系における名誉という問題の重要性をも再認識することになった。
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Research Products
(2 results)