2006 Fiscal Year Annual Research Report
徂徠学派以降の三倉論における経済社会安定化論と日本の経済政策思想の展開
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16530136
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
西岡 幹雄 同志社大学, 経済学部, 教授 (70172632)
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Keywords | 「利用厚生ノ道」 / 「天下ノ平糴」 / 「義利」と「公共」 / 「常平倉」論 / 「社倉」論 |
Research Abstract |
太宰春台の「経済」思想は,経済の制度設計と「利用厚生の道」ということで語ることができる.たとえば,「常平倉ノ法」のような政策手段の導入は,米価政策を通じての物価安定化に資するとともに,経済変動を制御するような意義だけにとどまるものではない.それぞれの「利」との間で矛盾が生じ,しかも長期的に「天下国家」の利益を低下させても「利」を優先させる行為が禁じられない場合,あるいは「天下」の利益を増加させるために一時的に「利」を制限できる場合,「時務」の緊要性によって制度を設定することが「利用厚生ノ道」に照らして,合理的な制度化として「便益」があるであろうか.この問題は,「人情」と公共利益の「政」との間に生じるディレンマが私的利益の最適化行動と「公共」の利益との乖離として把握され,これが外部性として認識されることを意味した.春台による「経済」学における制度観は,「常平倉ノ法」の導入によって協調行動を促して「利用厚生ノ道」に沿った,非協調的な「利」抑制しうる「治安」を重視するフレームワークを構築するという経済社会全体のテーマと厚生的「経済」の思想の課題を明らかにした. しかし「天下ノ平糴」を十分に普及させることができない遠方の地域社会では,社会的安全保障が「公共」をモラルとリスクとの分担のできない.中井竹山の「社倉」論とは,経済規模で劣る地域では,経済変動に対して末端の階層は余裕を持って応じることができないため,彼らの本業が安定すれば国は安定する理念にもとついて,内外の危機に対して,積立による地域の安定化のための「公共」的な基金である.竹山は,徳の拡大と安定持続性の下での「義利」の論理を共有しつつ,社会的安全保障と「公共性」がモラルとリスクとを共有できる仕組みを建設すべきであるという厚生思想に行き着いたことになる. 春台から竹山にかけての「経済」思想の展開は,長期期待の下で社会意識を喚起しつつ,「公共」双方の利益をも内在させる仕組として,これ以降の「経済」思想へつながりを見いだすことができよう.しかし「義」と「利」の関係,およびこれを支えていた徳の自覚とこれにもとづく知識・行動に支えられた道徳的・協力的コミュニティが維持できないほどの時間的制約が迫り,そして合理性が狭小な方向に集約されたとき,制度設計による経済思想は,「厚生」をめぐる「公議」というフレームとして,再度,新たな段階の経済思想として再検討されるであろう.
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Research Products
(1 results)