Research Abstract |
17年度は,Barro and Gordon[1983]の「裁量の均衡」を動学的に再定式化し,理論的にも政策的にも重要な下記の成果を得た. 裁量の均衡は2つ存在する.当局は不安定均衡では,生産量の変動に対して積極的調整を行い(activeな均衡,以下a均衡と表示),その結果デフレが出現するが,安定均衡では微調整を行い(passiveな均衡,以下p均衡と表示),望ましいインフレ率よりも高いインフレ率が出現する.ここで,社会的損失は確率成分と非確率成分に分解される.例外を除き,a均衡ではp均衡に比べ,確率成分の値のほうが大きい.確率成分が外生的ショックに,非確率成分は,当局が最適とする自然生産量からの乖離に依存するから,各均衡で,どちらの社会的損失がより小さいかは,これらの相対規模に依存する.現在では,当局の目指す水準が自然生産量に近く,外生的ショックが経済の最大の不安定要因であるから,これはp均衡がa均衡よりも望ましいことを意味する.経済がa均衡にあり,不況が継続しているとき,目標インフレ率が引き上げられ,公衆の期待インフレ率も上昇する.もし公衆が「当局はインフレ目標策実現のため,より積極的な政策を採用する」と予想するなら,a均衡の不安定性のために,経済は均衡から離れ,インフレ目標策は失敗する.一方p均衡にある経済で,インフレ率引き下げをめざしたインフレ目標策が採用された場合には,たとえ公衆が「当局は補助的手段として,微調整するだけの政策に変更する」と予想しても,p均衡の安定性により経済は均衡を回復し,インフレ目標策は成功する可能性が高い.すなわち,インフレ目標策は,インフレ率引き下げには有効であるが,インフレ率を高めるためには有効ではない.
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