Research Abstract |
人口は環境に影響を及ぼすと考えられる一方,将来の環境水準は子に対して利他的な個人の出産選択に影響を与える可能性がある。本研究では,このような相互作用に着目し,その分析のために環境要因と内生的な出生率を同時に考慮したモデルの構築を行なった。そして,環境保全投資がない場合とある場合について,出生率,遺産,環境がいかなる水準に決定されるかを検討した。 より具体的には,利他性と子の数の選択を含むBecker and Barro(QJE,1988)タイプのモデルに環境要因を導入した。親は,子の数を選択すると同時に子に対する所得移転(遺産)を行う。総消費(当期の人口と一人当たり消費の積)を環境悪化要因と考える一方,政府は一括固定税を財源として。環境保全投資を行い,これらから環境水準は決定される。このようなモデルに基づき,出生率と遺産水準の競争均衡を導出し,社会的最適解との比較を行なった。 まず環境保全投資がない場合には,ある条件の下で,出生率は社会的に最適な水準と比較して過小となり,遺産水準は過大となることがわかった。直感的には,環境外部性のために,出生率も遺産水準も社会的最適解と比べて過大となると考えられるが,本研究では,予想に反して出生率については過小となる可能性があることが示された。これは,遺産は親にとって子を1人増やすときの限界費用となるため,過大な遺産が出産数の決定に影響を与えるためであろうと思われる。次に,環境保全投資を行う場合であるが,やはりこの場合も出生率は社会的最適水準と比較して過小となり,遺産は過大となった。これらの結果は,環境要因が少子化につながる可能性を示唆している。今後は,出産税(出産補助金),相続税,消費税などによって,分権的に社会的最適水準が達成可能かどうかについて検討を進めたい。
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