2005 Fiscal Year Annual Research Report
瀬戸内海離島出身者の地域移動とネットワーク:地域社会の変容に関する実証的研究
Project/Area Number |
16530346
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
武田 尚子 武蔵大学, 社会学部, 助教授 (30339527)
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Keywords | 地域社会 / 瀬戸内 / 離島 / キャリア・コース / 第一次産業就業者層分解 / 職業移動 / 造船業 / 下請 |
Research Abstract |
平成17年度も、調査対象地域である広島県福山市内海町(田島と横島の2つの離島から構成される)において、集中的に聴き取り調査を実施し、関連する資料を収集した。1945年以降の、当該地域社会の変容過程を把握するため、聴き取り調査のポイントを2つの点においた。1点めは戦前の移民経験者と家族の、戦後におけるキャリア・コースを明らかにすることである。2点めは当該地域社会に出現した造船企業下請企業経営者の経営者層への職業移動・到達過程を明らかにすることである。 1点めについては、次のような一定の研究成果を得ることができた。マニラへの移民送出経験者・家族のすべてに共通する顕著な特徴は、「帰国後のキャリア」に地元漁業への復帰者がいないことである。マニラへの移民送出経験は、地元漁業からの離脱ということを意味した。集落によって、地元漁業からの離脱時期に、差異やタイムラグがみられるが、これは、近現代日本社会に生じた、戦前と戦後の2段階の第一次産業就業層分解に対応したものであったと考えられる。 2点めについては、次のような一定の研究成果を得ることができた。造船業下請企業経営者となった人々は、本人の精神力、身体能力、異なる労働市場に最初に参入した時に質の高い技術にアクセスできる可能性、などの条件に恵まれ、転職初期の熟練化ルートを順調にたどることができた。自営ブルーカラーとしての開業が造船企業によって厳しくコントロールされているこの地域においては、誰でも努力すれば到達的職業への移動が展望できるという状況ではなかった。到達的職業への移動障壁は高く、それをのりこえさせるものは親族ネットワークなどの属性的資源であった。安定した到達的職業へたどりつくには、熟練化と、有利な属性的資源が接続する必要があった。この事例では、到達的職業への職業移動トラックはかなり限定された人にしか開かれていない。日本の二重労働市場は高度経済成長期における第一次産業就業者層分解によって、再編成されていった。この事例から逆に、非安定雇用部門に組み込まれた労働者が再生産されていく仕組みを推測することが可能である。
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Research Products
(2 results)