2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16530353
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
井上 眞理子 京都女子大学, 現代社会学部, 教授 (50137171)
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Keywords | 子ども虐待 / 臨床社会学 / 介入 / ストレッサーへの適応の2段階モデル / 福祉的対応 / 司法的対応 / 家族維持 / 家族介入 / 子ども虐待への政策的対応 / 子ども虐待防止民間団体 |
Research Abstract |
子ども虐待については、従来、加害者個人のパーソナリティ特性に重点を置く精神医学的アプローチ、臨床心理学的アプローチが研究の主力となってきた。これに対し本研究では、「ミクロ-メゾ-マクロの相互浸透」という臨床社会学的観点から、パーソナリティ特性に加えて家族集団、法、制度、政策、民間団体の虐待防止の活動等を相互に関連づけ、子ども虐待発生のメカニズムの明確化およびそれへの有効な対応の検討が目指されている。 子ども虐待発生のメカニズムについては、既存の社会学的研究を踏まえ、「ストレッサーへの2段階適応モデル」が本研究において提起された。このモデルにおいては、ストレッサーはただちにストレスを発生させて、虐待へとアクト・アウトするものとは考えられていない。ストレッサーとストレスとの間には、中間的過程が介在しこの過程がうまく機能すればストレスは発生せず、虐待へとアクト・アウトすることもないと予測される。この中間的過程は「個人的適応」と「家族機能的適応」との2段階にわかれ、個人的適応の段階でストレッサーにうまく対処できなくても「家族機能的適応」の段階に持ち越されて対処される。ここにおいても機能不全で有効に対処できなかった場合に初めてストレスが発生し、虐待のリスクが高まる。このモデルではさらに「個人的適応」、「家族機能的適応」のいずれにおいても「環境的要因」を考慮しており、「環境的要因」との相互作用において適応の機能を考えている。このモデルを用いることによって、従来からの臨床心理学的、精神医学的アプローチにおける「個人主義的傾向」それゆえの「宿命論」を克服し、子ども虐待の問題を人間関係の複合性、社会システムの中に位置づけることによって有効な対応を可能にすることができると考えている。 平成16年度においては「環境的要因」のうち、特に、地方自治体における子ども虐待への政策的対応について注目し、2003年度から2004年度にかけて虐待死事件が発生した全国の市からサンプルを選んで子ども虐待への政策的対応について尋ね、自由記述式で回答してもらった。これらの市では一部を除いて(およびその他の全国の市においても)子ども虐待防止のためのネットワークの立ち上げは行われているが、内実は連絡会どまりが多く具体的事例の検討会が行われているのは稀である。ネットワークを立ち上げるだけでなく、実際に機能するものにすることが今後の課題であろう。またネットワークに参加しているのは公的な機関が多いが、今後は民間団体の有効な参加が必要である。平成17年度は子ども虐待防止のための民間団体の活動について調査を行う予定である。
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Research Products
(4 results)