2006 Fiscal Year Annual Research Report
統一ドイツにおけるナショナル・アイデンティティと政治的共同性に関する実証的研究
Project/Area Number |
16530357
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Research Institution | Osaka University of Economics |
Principal Investigator |
城 達也 大阪経済大学, 人間科学部, 教授 (70271608)
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Keywords | アイデンティティ / 都市の意味構造 / 統一ドイツ / ナショナリズム / 記憶 / 建築と政治 / 公共性 / ナチズム |
Research Abstract |
首都ベルリンを中心として、統一後のドイツの建築物やモニュメントの建立などの状況を分析し、都市の記憶と意味構造を明らかにした。フランスの哲学者ベルクは客観的だと思われている都市構造が実は主観的な意味とも関係することを指摘しているが、近代ドイツの都市空間(とりわけ広場などの公共空間)は、内的自然と同様に外的自然を制御し、いわば「文明化された」空間として認識されてきた。それは古代ギリシアの模倣として表れ、ナチスに至るまでそうであった。 第二次大戦後ドイツ、そして統一ドイツにおいても、人々は自分たちを文明化された国民として再認識し、自己のアイデンティティを確立した。このような点をとりわけ、新国会議事堂(ライヒスターク)をめぐる議論の中では、19世紀以来の伝統的な国民意識が復活していく過程を分析した。また、ドイツ人が加害者となったナチスの犯罪に関して都市の中に記憶に留めるべきかどうかをめぐってドイツ人のアイデンティティは激しく揺れ動いた。さらに自分たちが被害者になった事例として、第2次世界大戦後に東欧・旧ソ連から強制移住させられたドイツ人移民たちに関する慰霊碑では、逆に被害者としてのドイツ人という自己アイデンティティが噴出しているのが見て取れた。強制移住させられた人々は、戦後ドイツ社会で同郷人会を形成し、元の居住地域への気持ちをあらわすモニュメントを各地に建立するなどして、自分たちの存在を意味づけていることがわかった。 結論的には、(1)一方でこんにちでも古典的近代の風景を再生しようとする方向が継続しているとともに、(2)他方でそれから距離を取ろうとする建築および建築をめぐる議論も多くあること、(3)さらには近代ドイツやナチズムの生み出した負の側面そのものを都市の風景に取り入れようという方向もあること、などの大きく三つの点を示した。
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