2005 Fiscal Year Annual Research Report
イギリスにおける「教育と福祉」協働システムの社会的公正戦略における効果性
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16530548
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
岩橋 法雄 鹿児島大学, 医学部, 教授 (20108971)
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Keywords | ニュー・レイバー / 貧困 / 社会的排除 / 教育アクションゾーン / welfare to work / 社会的包摂 / social exclusion |
Research Abstract |
今日、「教育と福祉」の協働システムとしての不可欠な位置を占めるものは、<Welfare to Work>の基本戦略として、福祉依存からの脱却を目指して設定される多様な教育及び訓練プログラムである。それは、福祉施策から自立して就労できるだけの職能を身につけることが個人の自己責任として位置づけられた上での応援プログラムである。そこでは就労して生計を維持できるだけの職を求めて競争させる社会構造の構築・強化が追究されている。換言すれば、生計を維持できるだけの職に就くまでの貧困は自己責任というイデオロギーが基盤をなしている。個々には社会移動の上昇過程に位置付く者もあろうが、大多数を低賃金に甘んじさせる社会構造が進行することになり、かつ政府は福祉施策から後退する。こういう状況の中で、どれだけイギリス社会の貧困は克服され、貧困が主なる要因である社会的排除(Social Exclusion)が克服されてきたのか? PSE (Poverty and Social Exclusion Unit)の最新調査報告などを手がかりに、1980年代、1990年代、2000年代初めと時系列を追って、分析を行った。調査対象者がその時点での生活において「必需品目」として何を認知しているかを指標として「貧困」の定義を考察し、かつ認知の変化を分析することによって、単なる家計収入の絶対額でのみ貧困を測定するのではなく、その社会での実質的な貧困の状態を明らかにした。その結果、イギリス労働党政府(ニュー・レイバー)が展開してきた<Welfare to Work>を基調とする貧困との闘いという戦略は、社会的公正性を発揮できているとは必ずしも言えず、むしろ貧困は増大していることを明らかにした。そして、貧困及び社会的剥奪が深刻な地域の学校及び職能訓練機関に教育改善のための補助金を優先的に配分し、教育機関のパフォーマンスの向上を推進する「教育アクションゾーン」という戦略についても、個々の学校の教育改善の目に見えた成功例はあるものの、地域全体としての貧困状況やその改善が進み、そして経済的、ジェンダー的、人種的剥奪状況からくる社会的排除が克服され、政府の唱道する社会的包摂(Social Inclusion)が進んだとは言えないことを示した。
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Research Products
(1 results)