Research Abstract |
スピン波理論は,物質の磁気励起・磁気緩和過程を記述する上で極めて強力な手法であるが、ボーズ・アンサンブル特有の粒子数発散の困難があり,低次元系にこれを適用しても定量的知見は得られないとされてきた.そこで,粒子数の制御条件を課すことにより従来のスピン波理論を修正し,低次元磁性体の熱力学・動力学の定量的記述を試みようというのが,本研究の主題の1つである.これまで,1次元のフェリ磁性体・強磁性体において,比熱・帯磁率など静的熱力学量の記述を行い,修正スピン波理論の低次元における高い信頼性・定量性を十二分に示してきたが,本年度,核スピン-格子緩和率,すなわち動的物理量の定式化に大きく踏み出した. 研究の進捗状況は目覚しく,既に大きな成果として,擬1次元フェリ磁性体NiCu(C7H6N2O6)(H2O)3・2H2Oの核磁気緩和率観測[N.Fujiwara and M.Hagiwara : Solid State Commun.113,433(2000)]の解釈成功を挙げることができる.電子系の磁気励起を媒介した核磁気緩和では,エネルギー保存則から,通常Raman散乱過程が主たる緩和機構を与える.しかし我々は,交換相互作用を介して核スピン・マグノン散乱が増幅される2次過程を考慮することにより,高温・低磁場で,3マグノン散乱過程がRaman過程を凌ぎ得ることを証明した.上述の物質にこの理論を適用することにより,Raman過程では全く説明できなかった桁違いに大きな磁場依存性の謎が解明された.この成果は,この3月の日本物理学会招待講演で紹介される予定である.現在,本研究科物理学専攻の低温物理学研究室グループ(熊谷教授・古川助手),及び九州大学理学研究院の浅野助手に,新規擬1次元フェリ磁性体Ca3Cu3(PO4)4の核磁気共鳴実験を提案しており,1次元フェリ磁性体・強磁性体のドラマティックな磁気緩和過程の包括的理解に向けて,理論・実験のタイアップ研究が始動している.
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