Research Abstract |
伝導電子と格子振動の相互作用に起因して,電子系エネルギーバンドのフェルミ準位におけるギャップと2k_Fの波数を持つ格子歪みが自発的に形成されるパイエルス転移は主として1次元系に特有の現象として知られているが,2次元系以上でもフェルミ面が特殊な形の場合には実現する。特に,2次元正方格子で電子バンドが半充填のときには,フェルミ面が正方形になるという特殊事情のため,1次元系と同様のパイエルス転移が起こることが従来から知られていた。しかし,電子格子結合が,電子のサイト間ホッピング積分のサイト間距離依存性から生じるSSH型モデルの場合には,フェルミ面のネスティングを起こさせる単一のベクトル(=ネスティングベクトル)の歪み成分だけでなく,それに平行な波数ベクトルに対応する多くの歪み成分を伴ったマルチモードパイエルス状態が実現することを我々のグループの従前の研究によって明らかにしてきた。本研究計画では,そのマルチモードパイエルス転移を,フォノンのソフト化の観点から調べ,高温側から温度を下げていった場合には,実際,ネスティングベクトルのフォノンモードと,それに平行な波数を持つ全ての横波モードがある転移温度で一斉にソフト化することを示した。また,転移温度以下のマルチモードパイエルス相は,異なる歪みパターンの多くの状態が縮退しているが,異なるパターンに対しては,フォノンモードの振る舞いも異なっており,実験的に区別出来る可能性を示した。さらに,電子間相互作用を含めた場合のマルチモードBOW-SDWの転移に関しても分子場近似の範囲内で調べ,電子間相互作用が弱い領域ではSDWよりもマルチモードBOWの方が安定であることを示した。またわずかな異方性が存在する場合に,異方性を摂動として扱うことによって,基底状態の縮退が解ける可能性があることも明らかにした。
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