Research Abstract |
いくつかの火山で採取した火山岩の試料を用いて,流動電位法によるゼータ電位測定を行った.昨年度測定した資料について,表面伝導の効果を評価してゼータ電位を再計算した.岩石サンプルセルに流動水を通過させたときに両端に生じる電位差を測定することによりゼータ電位が測定されるが,このとき,サンプルの空隙ではなく,セルの表面による電気伝導の効果が無視できないことがわかったためである.また,昨年度未完成であった,圧力測定も行えるように部分的に装置を改良した. 一般に,岩石のゼータ電位は流動水のpHに対して依存性を示す.今回再評価した7サンプルのうち,4サンプルが,pH未調整状態の測定で正のゼータ電位を示した.正のゼータ電位を示すサンプルは,Hase(2004)により阿蘇火山でも見つかっているが,今回の測定は,その他の火山でも正のゼータ電位を示す岩石は希ではないことを示唆している.これまで,岩石-水の系では,ゼータ電位は負の値をとるという認識が一般的であったが,それは必ずしも正しくないことが本研究で示された. ゼータ電位の正負を決定している要因について調べるため,岩石の元素組成とゼータ電位の関係を吟味した.その結果は必ずしも明瞭ではなく,主要構成元素の組成だけでゼータ電位が決定されている訳ではないことが示唆された.今後,造岩鉱物組成や,流動させる溶液側に溶解した成分まで考慮した検討が必要である. また,今年度は野外観測として,山頂部に自然電位異常の存在が知られている樽前山で比抵抗探査を実施したところ,山頂域の直下に極めて比抵抗の小さい領域が存在することが明らかになった.これは,山頂域の自然電位異常が地下の熱水対流系の流動電位によって生じている可能性を強くサポートするもので,流動数値計算によって自然電位の定量的解釈を行う上で不可欠な情報が得られたことになる.
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