Research Abstract |
本研究の目的は,「季節サイクルの変調」という視点を新しい切り口として,異常気象や,温暖化などに伴う東アジアの気候変化予測のための基礎的知見を得ることである。今年度も,梅雨期や秋雨期やその前後を中心とした解析やモデル研究を行って総括するとともに,冬を挟む時期についての今後の研究の展望についても検討した。主な結果は次に例示する通りである。 (1)梅雨最盛期に入る直前の6月前半頃に梅雨前線北方に位置する中国淮河流域では,気温が急激に上昇する割に水蒸気量は上昇せず,春に比べて「不飽和度」が増すこと,それには,当該領域では,北の寒帯前線帯上の擾乱の影響での南風侵入も比較的起きにくいという季節的背景が重要であることを指摘した。 (2)近年30年,6月のアジア域における気候変動を研究した。その結果によると,日本や中国の梅雨前線帯において,降雨の増加傾向が見られる。一方においては,フィリッピン域では減少傾向が見られる。2つの領域における関係性を調べるために,気候モデルを用いて実験をおこなった。梅雨域に加熱をおこなう実験をすると,フィリッピン域により乾燥化がみられ,2つの領域がおたがい協調してこのような気候パターンが出来やすいことが確認できた。 (3)盛夏から全国的な秋雨期への移行時に見られる九州北西部での8月終わり頃の降水のピークは,台風の影響というよりも,数100km北方に停滞する秋雨前線の暖域での降水としての寄与が確認できた。但し,このような現象は1990年代以降よりも1970〜1980年代に多く見られた点も興味深い。前線の暖域でのまとまった降水は,梅雨最盛期の九州でもしばしば見られた(1997〜2005年の解析)。この状況での降水は,九州北部の梅雨期全体の降水の約20%を占め,この状況は,単なる孤立積乱雲というよりも,梅雨最盛期の集中豪雨を特徴づける組織化された降水系の出現に伴っており,強い下層南風が明瞭な高気圧性曲率を持たない状態で九州を通過する状況で生じていたことが分かった。このように本研究は,暖候期の降水の季節的背景やその変動には,亜熱帯前線帯の暖域での大寒過程にも注目する必要性を例示している。
|