Research Abstract |
亜臨界・超臨界流体中における拡散現象とその反応ダイナミクスへの関わりを理解するために,以下の項目について研究をおこなった。 一つめは,亜臨界エタノール中における一価イオンの電気伝導度測定である。測定温度は60〜240℃で,気液共存線に沿った圧力・密度を用い,主に密度効果に注目して考察した。アルカリ金属イオン,ハロゲン化物イオンでは,液体状態から密度を低下させると,臨界密度の2倍までは伝導度が増加した。これは,液体的な連続体モデルに基づく誘電摩擦理論の予測と一致した。しかし,それ以下の密度では,理論の予測とは反対に,密度低下によって伝導度が大幅に減少した。これによって,連続体モデルの適用可能範囲が臨界密度の2倍以上の密度範囲であることがわかった。一方,テトラアルキルアンモニウムイオンでは,160℃以下の条件でしか測定が行えなかったが,半径の大きな(C_3H_7)_4N^+,(C_4H_9)_4N^+では連続体モデルの予想通りの結果が得られたのに対し,(CH_3)_4N^+,(C_2H_5)_4N^+では低温・高密度の方が実測値と連続体モデルとのズレが大きかった。これは,溶媒の水素結合構造の影響であると考えられる。 もう一つは,剛体球流体中における拡散律速反応のシミュレーションである。剛体球流体は,広い範囲にわたって密度を連続的に変化させることができ,かつ引力的な相互作用を伴わないので,分子間引力の効果が顕著であると考えられている臨界点近傍の反応ダイナミクスを研究する上で,非常に重要な参照系である。シミュレーションの結果は,極端に高密度の場合を除く広い密度範囲で,フォッカープランク方程式による理論と一致した。これは,超臨界状態における反応ダイナミクスを考える際に,分子運動の慣性効果が重要であることを示している。高密度で見られたシミュレーションと理論とのズレは,分子運動の非マルコフ性を考慮することで説明することができた。 以上の二つの研究により,亜臨界・超臨界状態における拡散律速反応の特徴を明らかにできた。
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