Research Abstract |
前年度までに,2-アルコキシ-2H-アゼピン誘導体とルイス酸との脱アルコキシ化反応で得られる陽イオン種は,初めての複素環6π電子系芳香族陽イオンであることを確認した。これは,これまで理論的研究で議論されてきた,アゼピニウムイオンは一重項であるか三重項であるかという電子構造の問題に対する解答を与えたもので,炭化水素類縁体であるトロピリウムイオンと等電子構造であることを実験的に示したものである。 本年度はこの知見に基づき,反応性に主眼をおいて研究を継続した。トロピリウムイオンは炭素陽イオンであるにもかかわらず,芳香族性による安定化のため,条件(pH<4)を整えれば水溶液中でさえイオンとして存在することが知られており,この陽イオンを求電子試剤とするフリーデル・クラフツ反応は種々の基質に対して検討されたが,反応生成物を与えないという結果が数多く報告されている。合成したアゼピニウムイオンとベンゼン,アニソール,フェノール等の基質との反応を試みたところ,良収率でアリール置換ゼピン誘導体を与えることがわかった。反応は位置選択的であり,ベンゼンとの場合には2-フェニル-2H-アゼピン誘導体および4-フェニル-4H-アゼピン誘導体を主に与えることがわかった。選択性はアゼピニウムイオンのLUMOの電子構造で説明できた。とりわけ,この反応で得られた4H-アゼピン誘導体は,他に効率よい合成法が見出されて無く,本反応により初めて効率良く4H-アゼピン誘導体を合成することが可能となった。 アゼピニウムイオンはトロピリウムイオンと等電子構造であるにもかかわらず,フリーデル・クラフツ反応における挙動は異なり,芳香族性を持ちながら活性な陽イオン種であることがわかった。環のsp^2炭素原子をsp^2窒素原子に替えることにより,イオンのLUMO順位の低下,さらに異節原子がπ電子の非局在化を部分的に阻害し,系の安定性を減じているため反応活性が向上したと考える。
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