Research Abstract |
河川水は河床を通じての伏流浸透や地下水の湧出など,周辺地域の地下水と水交換を行いながら流れている.水辺環境の保全が叫ばれる今日,低水時の河川流況や環境維持流量を改善するために,河川水と地下水を統合的に扱った流域水の管理が求められている.例えばダムや堰堤での取水によって流量が減少した河川や,透水性の高い扇状地を流下する河川では,伏流によって流れが枯渇する場合もあり,河川と地下水の水交換が河川の流況を考える上で重要な要素となっている.流量の著しい減少は,水深や流速の減少だけでなく水質の悪化を招き,魚類をはじめとする生態系や河川景観上の問題を引き起こす.本研究は,河川環境を保全するための維持流量の評価に向けて,河川と地下水の相互作用とそれに伴う河道流況の変化を,水質特性も視野に入れて現地観測するとともに,水理モデルを構築して検証することを目指した. 本年度は昨年度に引き続き,滋賀県の湖東扇状地を流れる野洲川を対象として,周辺地下水が低水流況に及ぼす影響を考察するとともに,扇状地における河川水と地下水を統合した水収支構造を評価した.とくに水収支を曖昧にする一因である河川から地下水への伏流現象のうち,水理学的に複雑な不飽和浸透によって生じる伏流過程を対象として,従来から用いられてきた伏流強度評価式の問題点をシミュレーションによる数値実験を踏まえて明らかにするとともに,伏流強度を適切に表現できる新たな評価式を提案した.さらに,昨年度に開発した河川水と地下水両者の支配方程式を連成させて解析する「河川と地下水の相互作用モデル」に提案した評価式を組み込み,野洲川扇状地に適用することによって,従来よりも精度良く,河川水と地下水との水交換を評価できるモデルを構築した. さらに本年度は,この相互作用解析モデルを名古屋市の都市河川である堀川に適用した.堀川は自己水源をもたないうえ,流域からの汚水によって水質が悪化しているが,近年,流況を改善するために地下水を河川へ投入する実験が行政によって行われている.本研究では河川-地下水相互作用モデルを用い,地下水投入による河川の流況変化ならびに揚水井による周辺の地下水位状況を解析したところ,多地点での揚水によって河道流量を回復させることができ,揚水による地下水位低下はわずかであることが判明した.解析モデルは一定の完成度をもつが,より汎用的なものとするため,今後も改良を進める予定である.
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