2005 Fiscal Year Annual Research Report
円錐花序をつけるハマニンニク(イネ科)の集団の遺伝的分化と繁殖様式
Project/Area Number |
16570088
|
Research Institution | Kanagaa Perfectural Museum of National History |
Principal Investigator |
木場 英久 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 主任研究員 (50221966)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀬戸口 浩彰 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 助教授 (70206647)
|
Keywords | ハマニンニク / 円錐花序 / 線虫 / ハマニンニク属 / イネ科 |
Research Abstract |
ハマニンニクLeymus mollisの属するコムギ連の種は、少数の例外を除いて穂状花序か総状花序をつける。本種も穂状花序のみをつけると考えられてきたが、意外なことに円錐花序をつける個体があることがわかった。本研究ではハマニンニクを分子系統地理学的に解析して、円錐花序を獲得した歴史(円錐花序がハマニンニクの南限である日本列島で得られた新しい性質であるのかどうかなど)を明らかにし、円錐花序の生物学的意義(円錐花序が無性繁殖のための器官であるのかどうかや、円錐花序を出す条件かなど)を明らかにすることを意図して研究を開始した。 分布:ハマニンニクは日本海側は山口県以北、太平洋側は千葉県以北に自然分布していることが、標本調査と現地調査で確認されたが、円錐花序が見られるのは、そのうち新潟県・宮城県以北であった。 原因:広範囲から採集した多数の標本で子房を観察することにより、線虫の寄生によって円錐花序が形成されることが判明した。 生物学的意義:線虫が寄生した子房では胚が発達せず、中身が線虫に占拠された。少数ではあるが発芽実験をおこなっても、発芽はみられなかった。線虫が子房に寄生した通例のとおり、種子は発芽能力を失っていると思われ、円錐花序をつけることはハマニンニクにとっては適応的意義がないものと思われる。 本研究では系統地理学や進化生態学的なアプローチでこの現象の解析を試みたが、線虫の寄生によっておこる現象であることがわかったので、ハマニンニクの遺伝的変異を探しても、ハマニンニクにとっての適応的意義を追究しても、意味がなくなってしまった。 しかし、寄生していた線虫は宿主特異性が高いことから、共進化の研究材料になりうることや、海外にも円錐花序があることなどが明らかになったので、今後は、研究組織に線虫学者を加え、線虫にとっての適応的意義や共進化の成立史に転換し、さらなる研究を進めるつもりである。
|