Research Abstract |
低source/sink比下で弱勢な穎果の初期成長が遅延しやすい品種としにくい品種が存在するが,この穂内における登熟優先度決定の品種間差異は,穎果のアブシジン酸(ABA)レベルによって説明可能で,ABAは成長促進要因として働いていることを前年度までに示してきた.しかし,穎果の初期成長期におけるABAの起源は明らかではない.そこで,弱勢な穎果の初期成長が遅延しやすいササニシキと,遅延しにくいアキニシキ,92133を用いて実験を行った.3品種とも登熟初期の穂切除によりABA濃度が高くなる傾向が見られた.また,登熟初期における止葉の内生ABAの日変化を調査した結果,日射量が多い日に実験したササニシキ,92133では日中より夜間に高くなった.さらに,登熟初期の遮光により,止葉のABA濃度がササニシキでのみ,有意に上昇した.以上より,ABAは葉で合成されること,ABAの葉から穎果への移動は光で促進されること,弱勢な穎果の初期成長が遅延しやすい品種では,弱光下で葉から穎果へのABA移動が低下することが示唆された. 外生処理の場合,ABAに加え,サイトカイニンも弱勢な穎果の初期成長を促進することを明らかにしてきた.そこで,サイトカイニンの働きについて調べた.ササニシキを水耕栽培し,出穂後はすべて50%の遮光を行った.出穂後,trans-zeatinを水耕液に加えたサイトカイニン処理区,水耕液のN濃度を標準の4倍とした多肥区,ABAを茎葉散布したABA処理区,出穂直前に根の約3/4を切除した剪根区を設けた.サイトカイニン処理,ABA処理,剪根処理は弱勢な穎果の初期成長を促進した.弱勢な穎果の内生サイトカイニンレベルは多肥処理で増加,剪根処理で減少した.一方,内生ABAは初期成長が促進されたサイトカイニン処理,ABA処理,剪根処理で増加し,ABAレベルと初期成長間には密接な関係が認められた.以上より,サイトカイニン処理による穎果の初期成長の促進はABAを介したものであり,サイトカイニンによる直接の働きではないことが示された.
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