Research Abstract |
古代エジプトにおいて,ファラオをはじめとする王侯貴族は現代人と同様の飽食の状態にあり,肥満となり糖尿病などの生活習慣病で苦しんでいたことが各種のパピルスなどに記録されている.我々は予備的現地調査や文献的調査研究の結果,ファラオ天然薬物から糖尿病や肥満症予防に有効と判断される伝承薬物および薬用食物を約80種入手し,肥満および糖尿病予防物質を探索するスクリーニング試験を実施し,肥満症や糖尿病予防に有効な成分の探索研究に着手した. 今年度はエジプトやトルコにおいて風邪や喘息などの治療に用いられるとともに食品としても供されているNigella sativa種子から,マウス初代培養肝細胞を用いた脂質代謝促進作用を指標に活性成分を探索した.その結果,活性成分としてdolabellane型新規ジテルペンアルカロイドnigellamine A_1-A_5,B_1-B_3,CおよびDを単離・構造決定した,Dolabellane型ジテルペンは,これまでに軟体動物や褐藻類,苔類から単離されているが,高等植物からの報告は殆どなく,珍しい例である. また,地中海沿岸地域を原産とし,日本においてもハーブとして用いられるセイジ(Salvia officinalis,葉)の抽出エキスに,オリーブ油負荷マウスでの血中中性脂質上昇抑制作用が認められ,活性を指標に分離・精製した結果,活性成分としてabietane型ジテルペンcarnosic acidを見いだした.更に高脂肪食飼育マウスにおいて,carnisic acidは5mg/kg/day(p.o.)の2週間連日投与で,その内臓脂肪の有意な蓄積抑制作用が認められた. その他,エジプトおよびその周辺地域の薬用植物であるCyperus longusの全草から6種の新規セスキテルペンを単離・構造決定するとともに,含有セスキテルペン成分にマウス初代培養肝細胞を用いたリポ多糖刺激による細胞障害に対する保護作用を見いだし,また,ヒガンバナ科植物のCrinum yemenseの球根部から3種の新規ヒガンバナアルカロイドを単離・構造決定するとともに,含有アルカロイド成分に誘導型NO合成酵素発現抑制作用を見いだすなど,種々のファラオ天然薬物の含有成分レベルでの機能解明を実施しており,平成16年度の当初計画をほぼ達成したものと考える.
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