2004 Fiscal Year Annual Research Report
医療倫理領域の諸問題に対する日本人研究者の規範的態度に関する研究
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16590421
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
浅井 篤 京都大学, 医学研究科, 助教授 (80283612)
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Keywords | 自己決定 / 尊厳死 / 日本 / 倫理的見解 |
Research Abstract |
本発表の目的は、わが国の人々が持つ死の自己決定-主に「尊厳死」-に関する態度を検討することである。2000年以降にわが国の生命倫理学研究者・教育者が発表した論文や著作を対象に文献研究を施行した。その結果、現代日本の生命倫理学研究者・教育者は、死の自己決定に対して極めて多様な態度を有していることが示唆された。 自己決定と呼ぶに値する真正な自己決定は存在しないという立場がある。我々のあらゆる決定は、他者との複雑な網の目のなかで行われるしかないものであって、その意味では純粋な自己決定は存在せず本質的に共決定にならざるを得ないという考え方である(死の自己決定存在不可能論)。次にわが国では、国民から死の自己決定は望まれていないという立場である。日本人は全体的に死や尊厳死について考えることを避けており、また医療における決定を他の人に「おまかせ」することを望む傾向にあるため、死の自己決定尊重は必要ないという考えもある(死の自己決定不要論)。更にたとえ自己決定が可能であったとしても、死に関する自己決定権はないという立場がある。なぜなら死は個人のものではなく、家族や第三者までも含めた人間関係の中で共有される社会的出来事だからという議論である(死の自己決定無効論)。 これらの他にも、死の自己決定権は概念上あったとしても、適切に実施できないという立場(死の自己決定実施不可能論)、自己決定尊重は結果的に他者や同一疾患を持つすべての患者に害を及ぼすため許容されないという(死の自己決定有害論)、現行のわが国の医療現場や医療体制においては過小医療、不十分な医療福祉、質の低いケアなどのため、患者が何らかの外的圧力を受けることなく本当に自発的にそして純粋に死の自己決定を行なうことはないという立場(死の自己決定強要論)等、全10の見解があった。これらの多様な立場が現代医療に持つ意味を考える必要は大きい。この結果は第六回アジア・パシフィック・ホスピス学会招待講演で発表される予定である。
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