2004 Fiscal Year Annual Research Report
HTLV-1の発がん機構とWntシグナル伝達経路との関連
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16590951
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
森 直樹 琉球大学, 大学院・医学研究科, 教授 (10220013)
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Keywords | HTLV-1 / β-カテニン / Tax / ATL / GSK-3β |
Research Abstract |
成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルス、HTLV-1のTaxは主要な病原因子である。一方、β-カテニンはWntシグナル伝達経路の構成因子として機能する。Wntの非存在下では、β-カテニンがAPCタンパク質やGSK-3β、Axin、CKIと複合体を形成し、GSK-3βがβ-カテニンをリン酸化し、リン酸化されたβ-カテニンはユビキチン化を受け、プロテアソームで分解されるため細胞質内β-カテニンのタンパク質量は低く保たれている。一方、Wntが分泌されて細胞膜上のFrizzled/LRPに結合すると、そのシグナルは細胞内へと伝達されDv1を介してGSK-3βは不活化され、β-カテニンのリン酸化と分解が抑制される。細胞内で蓄積したβ-カテニンは核内に移行後、転写因子のTcf/Lefと複合体を形成してc-myc、c-jun、fra-1、サイクリンD1などの標的遺伝子の発現を促進することによって、細胞増殖を誘導する。HTLV-1感染T細胞株におけるβ-カテニンのタンパクレベルでの発現を検討すると、Tax発現細胞株で核での蓄積が認められた。mRNAレベルではTax発現細胞株と非発現細胞株との間で、有意な差は認められなかった。さらに遺伝子変異もいずれの細胞株でも見いだされず、Tax発現と核におけるβ-カテニンの蓄積との間に相関が認められた。β-カテニン反応性レポータープラスミドを細胞株に導入後、レポーターアッセイを行うと、Tax発現細胞で強いレポーター活性を認め、β-カテニンの転写活性もTax発現細胞株では増強していた。プロテアソーム阻害剤で処理後、Tax非発現細胞株ではリン酸化したβ-カテニンタンパクの発現が認められるようになった。さらに、GSK-3β阻害剤の処理によりβ-カテニンの蓄積とβ-カテニンの転写活性の増強が認められた。したがって、Tax非発現細胞株ではGSK-3βによるβ-カテニンのリン酸化とそれに続く分解が速やかに起きていることが示唆された。一方、Taxはβ-カテニンの分解を阻止し、β-カテニンの転写活性を増強した。さらに、TaxとGSK-3βの結合が確認された。以上の結果より、TaxはGSK-3βと結合することで、GSK-3βを不活化し、β-カテニンの核への蓄積を誘導する。その結果、β-カテニン標的遺伝子の転写を活性化し、感染細胞の生存、腫瘍化へと導くことが想定された。
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