2006 Fiscal Year Annual Research Report
G蛋白質共役型受容体を介した膵癌細胞の増殖・浸潤促進,抗アポトーシス機構の解明
Project/Area Number |
16591304
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
太田 哲生 金沢大学, 医学系研究科, 教授 (40194170)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
萱原 正都 金沢大学, 医学系研究科, 助教授 (60224705)
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Keywords | G蛋白質共役受容体 / 膵癌細胞 / 腫瘍トリプシン / 腫瘍組織内アンギオテンシンII / PAR-2 / AT1 / EDG-2,-4 / 細胞内シグナル伝達 |
Research Abstract |
昨年度までの2年間において、ヒト膵癌組織内では、他の消化器癌に比較して高濃度のアンギオテンシンII (Ang II)が含まれており、その局所でRAS非依存性に産生されたAng IIがその特異的受容体AT1受容体を介して、さらには腫瘍自身から産生される腫瘍トリプシンがその特異的受容体であるprotease-activated recepto r(PAR-2)を介して膵癌細胞の生存と抗アポトーシス能の獲得に重要な役割を演じていることを報告してきた。そこで、今年度は、AT1やPAR-2受容体と同じ7回膜貫通型のG蛋白質共役型受容体のひとつであるendothelial differentiation gene (EDG)-2,-4の膵癌細胞における発現とそのリガンドであるリゾホスファチジン酸(LPA)による細胞内シグナル伝達系に関して検討した。材料は、分化度の異なる3種類のヒト膵癌細胞株{BxPC-1,AsPC-1,Panc-1}を使用した。方法は前年度と同様、それぞれのリン酸化分子を認識できる特異的一次抗体を用いてWestern blotting法でリン酸化の程度を比較して評価した。その結果、いずれの膵癌細胞株にもEDG-2,-4受容体の発現が認められた。しかし、LPA刺激に対し、その濃度が1μM濃度までは、膵癌細胞の有意な増殖効果は認められなかった。さらには、ERK1/2の明らかなリン酸化産物の増加も確認できなかった。この結果は、Ang IIやトリプシンのリガンドがnMレベルでシグナル伝達がおこなわれたのと対照的であった。そこで、最終年度のまとめとして、ヒト膵癌組織(外科切除標本)におけるトリプシン、PAR-2およびAT1発現と組織内Ang II濃度(手術時に採取)の関係を検討した。その結果、膵癌細胞内でのトリプシン産生およびPAR-2発現の強い症例ほど膵癌組織内での間質の線維化の程度が強く、また、組織内Ang II濃度も高いという傾向が認められた。ところで、膵癌組織内で産生されるAng IIは、RAS非依存性にトリプシンによって直接アンギオテンシノーゲンから産生されることがすでに荒川ら(Arakawa, et al.,J Clin Endocrinol Metab 42:599,1976;Arakawa e tal.,Nature 288:705,1980.)により指摘されていることから、膵癌細胞から産生されるトリプシンおよびそのトリプシンによって産生されるAng IIは、それぞれの特異的受容体(PAR-2およびAT1)を介して、膵癌細胞の生存と抗アボトーシス能だけでなく、膵星細胞や線維牙細胞(いずれの細胞もPAR-2とAT1受容体の発現がある)にもパラクライン的に作用して膵癌間質の線維増生(fibrogenesis)や血管新生(angiogenesis)にも重要な役割を演じていることが推察された。
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