Research Abstract |
口腔領域に生じた悪性腫瘍の摘出に際し,口蓋骨の切除を受けた患者に対して,通常は顎義歯装着によって構音機能の改善がなされる.しかしながら,顎義歯による構音機能の改善がなされても,構音に関する患者の不満感が解消されない場合がある.これらの不満感は,従来の機能評価法で評価するのは困難であった.本研究では,従来の機能評価法に加えて,発音時に顎義歯が患者に与える心理的影響を捉えることを目的として,上顎顎義歯を装着した16名の患者(上顎顎欠損群)を対象として,発音時における唾液中ChromograninA(CgA指標物質レベルを測定し,その値を年齢,性別,残存歯数を一致させた通常の有床義歯装着者16名(コントロール群)における値と比較検討を行った. 上顎顎欠損群において,発語前と比較した発語後のCgAレベルの上昇率は,義歯装着時(1.80±0.62)のほうが,非装着時(1.26±0.39)と比較して有意に高い値を示した(ρ=0.016).コントロール群では,義歯装着(1.41±0.35),非装着時(1.42±0.55)の発語後のCgA濃度上昇率に,有意差は認めなかった. 機能評価の結果では上顎顎欠損群では,顎義歯装着により咀嚼,発音機能は有意に改善した.コントロール群では,咀嚼機能は義歯装着により有意に改善したが,発音機能では装着,非装着間に有意差は認められなかった.VASを用いた主観的評価の結果では,両群で非装着時と比較して,装着時には咀嚼,発音,審美において有意に高い満足度を示した.これらの評価は,今回の顎義歯と,通常の有床義歯が良好に機能していることを示すものと考えられる. 以上の結果より,上顎顎欠損群では,顎義歯装着により,咀嚼,発音および審美機能が改善されているにもかかわらず,顎義歯を装着して発音する場合が,装着せずに発音する場合より発音に際しての精神的ストレスをより強く伴う可能性があることが示唆された.
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