2006 Fiscal Year Annual Research Report
日本民謡における「伝統保存」表象と地域文化の変容に関する歴史的研究
Project/Area Number |
16602002
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 裕 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 教授 (80167163)
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Keywords | 民謡 / 伝統の創出 / 地域アイデンティティ / 伝統芸能の保存 / 観光 / レコード・メディア / 土地の記憶 |
Research Abstract |
本研究の目的は、地方文化において伝統芸能の「保存」活動が行われる際の「伝統」表象のあり方と、その地域アイデンティティ意識との結びつき、さらにはそこにおいて「中央」と「地方」との間に働く力学といったことについて、日本の民謡を事例として歴史的に解明することにある。研究開始当初の計画では、「地方」の側の聞き取り調査や現地に残る文献資料を中心としたアプローチを考えていたが、昨年予定外の事態から現地調査が不可能になり、それを機会にむしろ、「中央」の側が「地方」に向けるまなざしのありようについて、これまで見落とされてきた資料を洗い直し、メディア、観光といった新たな視点をふまえてそれらを再検討する方法が有効であることを認識するにいたり、研究方法を大幅に変更した。もちろん研究計画の目的自体には全く変更はない。 本年の成果としては、戦前の旅行ジャーナリスト松川二郎が昭和初期に残した《民謡をたづねて》等の民謡紀行エッセイや彼の編纂した民謡集を、当時の旅行ブームとの関連で読み解く試みが挙げられる。このような民謡論は従来の民謡研究では無視されてきたものであるが、旅行とセットになった形で「郷土文化」としての民謡が「発見」されていった過程は民謡像や郷土像のあり方にとって大きな影響を及ぼしたというだけでなく、民謡集編纂の歴史を考える上でも、いまだ今日的な意味での民謡研究が確立されていなかった時期に確実に一時代を画する役割を果たしたことは間違いなく、その再評価は本研究課題にとって極めて重要な意味をもちうるものだといいうる。 幸いなことに、本研究の成果を軸とした論文集を単行本の形で刊行できる見通しが立ちつつある。最終年度にむけて、これまでの成果を総括してゆく試みを加速させたい。
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Research Products
(6 results)