2004 Fiscal Year Annual Research Report
極低温下における積雪内水蒸気輸送と安定同位体改変に関する研究
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16681002
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
藤田 耕史 名古屋大学, 環境学研究科, 助教授 (80303593)
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Keywords | 南極 / 安定同位体比 / 降雪 |
Research Abstract |
本年度は、研究代表者が第44次南極地域観測隊に参加し、南極・ドームふじにて越冬した2003年に採取した降積雪試料の分析を進めた。名古屋大学の安定同位体質量分析器には、分析を待つ他のサンプルが多数あるために、一部の分析結果が出てきたのは2005年1月のことであった。しかしながらその結果は非常に興味深く、冬期の試料の安定同位対比は、これまでに測られた地球上の降水の中でも最も小さい値を示した。すなわち、冬期のドームふじに降る雪は「世界で最も軽い水」であった。この安定同位体比と気温との関係は、これまでの研究で示されていた南極における表面積雪の安定同位体比と(年平均気温に相当する)10m深の雪温との関係をおおむね支持する内容であった。d=δD-8*δ^<18>0で現されるd値は、これまで降水の起源である海面での蒸発環境を反映していると言われているが、降雪中のd値は冬期に極めて高い値を示した。南極における降水の水蒸気起源ないし水蒸気起源の環境が季節によって極端に変化することは考えにくく、南極内部での水蒸気のリサイクルが生じている可能性を示唆している。チベット高原やシベリアで水蒸気のリサイクルが頻繁に起きていることは明らかにされているが、南極でその可能性に言及した研究はこれまでなく、氷床コアから古環境を復元する上でも重要な発見であるといえる。 さらに積もった雪である積雪試料の分析結果と比較したところ、降雪の安定同位対比に見られる大きな季節変化が失われていることがわかった。これは積雪内部の強い温度勾配によって駆動される水蒸気の移動に伴い、同位対比が変化するためだと考えられる。これまでにも雪の堆積後の変化については多くの論文で言及されてきたが、実際に降った冬期の降雪の結果と比較した例は南極内陸では世界で初めてである。 これらの結果は名古屋大学地球水循環研究センター共同研究集会において発表された。
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