Research Abstract |
咀嚼機能の評価法については,さまざまな検討が行われてきた.代表として節分法が挙げられるが,節分法は粉砕された食品の大きさを評価する測定である.しかし,本来の咀嚼の目的は,咀嚼した食品を嚥下しやすい物性へと変化させるものであり,節分法に代表される評価法は,咀嚼本来の目的である物性の変化に即した方法であるとは言い難い.真の咀嚼機能評価の基準は,食塊の物性そのものに重きを置くべきである.そこで本研究では,物性に着目した評価法の可能性を探るべく,各種食品の食塊を測定し,嚥下直前の物性を明らかにすることと,そこに至るまでの変化を解析し,食塊の物性の動態を詳細に調べた. 顎口腔系に特に異常が無い健常な被験者が咀嚼した各種食塊の物性を,物性試験機を用いて測定した.咀嚼した回数は,それぞれ物性が測定できる範囲で,前期,中期,嚥下直前で規定し,それぞれの咀嚼回数にて各種物性を測定した.被験食品はせんべい,チーズ,ピーナッツとした.測定した項目は,破断エネルギー,弾性率,粘性率,粘弾性コンプライアンス,硬さ荷重,凝集性,付着性である.得られたデータには,主成分分析,因子分析を行い,データの構造的な解析を行った. 得られたデータに対して,主成分分析を行った結果,第二主成分には凝集性と粘弾性コンプライアンスが独立して検出された.このため2つの項目を省き,残った5項目について改めて主成分分析を行った結果,いずれの食品においても,第一,二主成分は付着性と弾性率のいずれかが検出された,このほかの物性の項目については,食品間でその違いが認められた.このことから,少なくとも健常者の食塊の物性は,付着性,弾性率,凝集性に関してそれぞれ独立して評価が可能であることが示唆された.また凝集性と粘弾性コンプライアンスはそれぞれ相互に影響している可能性が認められた.また,得られた因子スコア係数を用いて,各被験者の因子スコアを求めたところ,咀嚼の進行と共に,収束する傾向が認められた.このことから,物性の面から,食塊の物性にはいわゆる嚥下の"閾値"の存在が示唆された.
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