Research Abstract |
CAD作図やワープロ作業など,注意の集中を必要とする視覚作業時に生じる眼精疲労は,眼筋がほぼ一定の緊張状態に保たれることがその要因の一つであるとされている.本研究では,視覚的注意機構の機能を考慮した固視微動に関する眼球運動神経系モデルを構築し,そのシミュレーション解析によって,眼精疲労の要因となる,限られた領域への注意の集中が眼球駆動神経系にもたらす負担を数値化して定量的に評価することを目的とする. まず,視覚的注意のように測定の困難な高次脳機能が,いかに不随意性の運動に影響を及ぼすのかを考察することを目的として,固視微動ドリフト運動の周波数解析を行った.注視を維持した状態で視覚的注意をコントロールする実験課題を実施し,計測された眼球運動データから,固視微動ドリフト運動の周波数解析を行った.その結果,注意が周辺視野に分散している場合は,注視点近傍に集中している場合に比較して,3〜4Hz付近の周波数成分が有意に高くなることが示された.今後は,この周波数帯域に変化をもたらす要因を明らかにし,実際の注視維持機構に忠実なモデルの構築を目指す. 一方,ある特定の時空間周波数のmoving gratingは,固視状態では識別できないのに,サッカードを生じさせることによって,その識別能力が上昇することが知られている.本研究では,注視維持機構と認知機構との関わりを推測するため,生理学的知見に基づいて,網膜からV1への投影を算出するモデルを構築した.シミュレーションの結果,サッカードによってV1像のコントラストが上昇することが示され,視覚系に入力された視覚情報には,V1に達する以前の段階で,サッカード間知覚に寄与するような修飾がなされている可能性が示唆された.こうした知見に基づき,眼球運動駆動系と認知機構との関係を定式化し,眼精疲労の危険度を数値化することが次の目標である.
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