Research Abstract |
アルツハイマー病は,老人斑と呼ばれるアミロイドβペプチドの沈着と,神経原線維変化という封入体のニューロン内蓄積に特徴づけられる神経変性疾患である。アミロイドβの前駆体蛋白質(APP)をニューロンに発現させると,アポトーシスが誘導される。一方,ショウジョウバエのニューロンに神経原線維変化の構成成分であるタウを発現させると,タウは過剰にリン酸化されてニューロン死がおこる。 ショウジョウバエは,キノコ体と呼ばれる嗅覚学習記憶の中枢を持ち,ほ乳類と共通した学習記憶の分子メカニズムを持つ。タウをキノコ体に発現させると,ニューロン死を伴わずに学習記憶が障害されることも報告されている。本研究では,ショウジョウバエのキノコ体をモデル系として,ニューロン死と,ニューロン死に先行することが予想される記憶障害における,APPとタウの相互作用を解析することを目的とした。 発生期と成虫のキノコ体を用いて,神経系に発現するMAGEと呼ばれる遺伝子についてRNA干渉法を用いて発現抑制させたところ,神経前駆細胞とニューロン数の増加が見られ,細胞周期制御の変化が示唆された。この際,APPの相同遺伝子APPLの発現に変化はなかった。APPの発現により,特定の部位でのタウのリン酸化を免疫染色法により解析したが,明らかな変化はなかった。また,ニューロン死に先行することが予想される学習記憶障害を解析する系として,T-mazeと呼ばれる装置を用いた嗅覚連合学習の実験系を新規に立ち上げた。 今回確立した,キノコ体の神経前駆細胞,ニューロンの細胞周期と細胞数,細胞死,学習記憶の解析系は,細胞周期制御との密接な関連が示唆されているAPPとタウによるニューロン死における相互作用を検討する上で大きく寄与するであろう。
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