2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16720007
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
橋本 崇 東海大学, 文学部, 助教授 (20287105)
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Keywords | 日本哲学 / 京都学派 / 九鬼周造 / 否定性 / 現実性 / シェリング / ヘーゲル / ドイツ観念論 |
Research Abstract |
今年度は、昨年度行ったドイツ観念論の文脈における後期シェリングとヘーゲルの「否定性の問題」を巡る関係の論究をまず整理することから着手した。後期シェリングは、ヘーゲルの『精神現象学』から『論理学』へと至る弁証法の展開において、なぜ絶対者が絶対的否定性を通して自身を現実に啓示せねばならないのかを明らかにしておらず、それでは絶対者の意志の自由が体系の中で打ち消されてしまうことを批判する。そこで、シェリング自身は『人間的自由の本質』の展開の中で、無から万物を創造する神の絶対的自由を、「無底」の底なしの愛として現実の体系の固定に据えたのであり、ヘーゲルの絶対的否定性は「無底」の否定性へと置き換えられている。 そしてこの論究をふまえて、二人の論争が、明治期の日本哲学に与えた影響の考察へと展開を試みたのであるが、まず今年度は京都学派を代表する3人のうち、九鬼周造の哲学から着手した。 『「いき」の構造』や『偶然性の問題』、あるいは『文芸論』といった著作で知られる九鬼周造の哲学は、明治期に輸入された西欧哲学の概念や方法を用いて、どこまで私たち日本人の生きる現実に迫れるかを極限まで追求したものであり、現実性と可能性、同一性と否定性、直観と概念といった対立の緊張関係の中で、日本の現実に根付いた哲学という新たな展開を模索した試みとして非常に意義深い。このような九鬼哲学の原動力となる緊張関係は、彼自身の生い立ちや長期の西欧留学体験によって育まれたものであり、本研究においてはまずこの思想形成に至る伝記的な展開をふまえた上で、更にこの緊張関係が九鬼哲学の根底にあるモティーフでもあることを解明し、このモティーフは弁証法によってくみつくせぬ豊かな現実性にこだわり続け、その止揚を概念の展開としての哲学ではなく、宗教や芸術の内に見いだそうとする後期シェリングと共通性を持つことを解明した。今後更にこのモティーフに関する論究を深め、西田幾多郎、田辺元についても考察を広げていきたい。
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Research Products
(2 results)