2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16720059
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
高本 教之 東京都立大学, 人文学部, 助手 (40315742)
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Keywords | H.v.クライスト / E.T.A.ホフマン / 19世紀ドイツ文学 |
Research Abstract |
「テクストの身振り-H.v.クライストの『聖ドミンゴ島の婚約』」は、本科研費補助金研究のいわば序論部に当たるものである。散文作品における登場人物の「身振り」(所作)と、それを描き出す作者の「身振り」(作者の書き方)を具に追うことを通してそのテクストの独自性を浮き彫りにすることが目指される。前者の「身振り」は、セリフの演出としてのみならず、同時にその陳述内容との齟齬を現出せしめるものとして読まれ、よって登場人物間のディスコミュニケーションの様態を顕在化している。また、後者として、論者は、登場人物の呼称の変化を取り上げる。それは、新版クライスト全集により広く明らかにされた、この小説における主人公の名前の書き換え(Gustav-August)に対する解釈の射程を、一度読者の反応(Reader-Response)のレベルにおいて確認(読み直し)するという試みである。それによると、具体的には、この名前の変化(Gustav-August)は、その人物の呼称の変化(fremde⇒offizier⇒juengling)との連関において見直されねばならないことが明らかになる。また、そうした「書き方」を、読者とのコミュニケーションのレベルにおいてみるならば、以下のような独自性が指摘されうる。すなわち、紙面上で描かれる「白」人と「黒」人のディスコミュニケーションの様相が、「白」と「黒」が成す紙面、線状的形態を成したその水平の方向から、突如、屹立して読者に対し迫り来るようにする、という仕掛けとしてのその「書き方」。当論文により、本科研費補助金研究の目的たる「散文作品における『身振り』」解釈に対する読み方の方向性を示したことになる。 「見えない音符と遊歩的語り」においては、当研究におけるもう一人の重要作家であるE.T.A.ホフマンの処女作(『騎士グルック』)から最晩年作(『いとこの隅の窓』)までを比較検討し、その小説作法の変化を分析した。とりわけ、書かれてあ(り、また読まれ)るものが、その本来性として有する線状性(時間的かつ空間的)を自身の限界と意識した際に、この時代の作者によっていかなる「書き方」が希求せられ、かつ実践されるかということが、考察の対家となる。特に、最晩年作の口述筆記という独自の創作法がそれに対する一回答と読み取られることを指摘した。 本研究は、今後も上記二人の作家の散文作品を中心に継続されることとなるが、その端緒は両論文により確かに示されえたことと考える。
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Research Products
(2 results)