2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16720074
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
中野 知洋 大阪教育大学, 教育学部, 講師 (70372638)
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Keywords | 曽今可 / 詞的解放運動 / 台湾詩壇 / 台湾詩選 |
Research Abstract |
如上の研究課題に従い、平成17年度前半は上海在住の編集者・作家である曽今可が中心となって1930年代に展開した、所謂「詞的解放運動」という論争を当時の新聞・雑誌所載の記事よりトレースするという作業に従事した。8月には上海図書館において資料収集を行い、『流露』『橄欖』等という月刊誌と、『中央日報』副刊や『申報』等に掲載された論説文を照合することにより、上記論争の争点を整理し、同時にこの論争を中国現代文学史上に如何に位置づけるかという点について考察した。研究成果は、平成18年度前半に公刊する予定である。問題の所在は、その創作活動の最初期(1930年前後)にはロマンチックな恋愛を歌い上げた小説を盛んに発表していた曽という作家が、上海事変等を経験することにより短期間のうちに極端に右傾化し、民族主義を掲げて蒋介石政権を扶翼する論陣を張るようになる一方、文芸活動においては「詞的解放運動」見られるように古典回帰・伝統回帰という傾向を帯びる点にある。民族主義に内在するロマンチシズム、もしくは民族主義とロマンチシズムの融合という現象を、曽の場合彼個人の創作活動に止まらず、雑誌の編集を通して論壇を形成することにより実践したという特徴がある。さて曽は、1946年より台湾に渡り、『建国月刊』『正気月刊』等を創刊して時事問題を論じたが、一方で『台湾詩壇』『台湾詩選』という詩集を編集することにより戦後台湾における詩壇形成の一翼を担った。曽における詩集の編纂は、『蒋主席六旬華誕介寿詩集』というアンソロジーに端的に表れるように従来彼が唱道してきた韻文という民族固有の形式による表現の探究にその動機があることは明らかである。その点において、曽の思想は戦前より一貫しているとも言える。そこで3月台湾に赴いて『台湾詩壇』等の資料を収集した。現在、台湾における詩壇形成を民族主義という思想と有機的に関連づける作業を継続中である。
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