2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16720090
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
伊藤 さとみ 琉球大学, 法文学部, 助教授 (60347127)
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Keywords | wh / 照応 / 使役文 / 埋め込み節 / 個体レベル述語 / 形容詞 / 量化 / イベント項 |
Research Abstract |
本研究では、現代中国語のwhの照応的用法が、どのような環境で許されるかを調べた。従来は、条件文において条件節と帰結節それぞれに同じ種類のwhが現れておれば、そのwhは同一指示と解釈され、whの照応的用法が成立するとされていた。しかし、調査の結果、whの照応的用法が現れにくい環境に少なくとも以下の二つがあることが分かった。一つは使役構文の埋め込み節の主語の位置であり、もう一つは形容詞述語文の主語の位置である。 まず、使役構文の埋め込み節の主語の持つ特性について調査し、これが埋め込み節内に痕跡を残して主節の目的語位置に移動する、所謂ECM(Exceptional Case Marking)構文と考えられることが分かった。中国語には、格の表示がないため、その名詞句が主格を持つか、目的格を持つかが判断しにくい。しかし、イントネーションの切れ目や副詞要素の挿入、埋め込み節主語の削除ができないこと、また埋め込み節の時制が主節に依存していることなどの現象から、ECM構文とすべきであることを明らかにした。この使役構文についての研究は、現在、「論兼語式」という題名の論文としてまとめ、「現代中国語研究」に投稿中である。whの照応的用法がこの位置に許されないのは、ECMに伴う移動を通して痕跡がすでに指標を指定されており、照応表現として用いるために別の指標を獲得することが難しいことと関連すると思われる。 一方、従来、照応的whは自由変項と分析されてきたが、whの照応的用法が形容詞を述語とする文の主語として現れにくいことは、この文責に問題があることを示唆している。形容詞は個体レベル述語であり、イベント項(または状況項)を有せず、従って照応的表現を含まない条件文に現れにくいことはすでに指摘されている。一方、談話表示理論の枠組みで照応的whを説明する分析では、whを自由変項とし、この変項を普遍量化詞が束縛することにより、条件節と帰結節を結び付けていた。形容詞述語文においてwhが現れていても文の容認度が上がらないのは、条件節と帰結節を結びつけるのはイベント項(または状況項)であり、wh由来の変項ではない可能性を示唆している。発表した論文においては、程度副詞に修飾された形容詞と修飾されていない裸の形容詞の違いを明らかにし、中国語独特の形容詞述語文の性質について述べている。 なお、中国語諸方言にwhの照応的用法があるかどうかを調査した結果、ほとんどの言語で可能な用である。中国語と系統的に関係のない言語においてwhの照応的用法があるかどうかについては、まだ調査中である。
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Research Products
(1 results)