Research Abstract |
本年度はまず,わが国における近時の(といっても10年以上にわたる)民事司法改革のサーベイを行い,迅速な裁判と真実の確実な発見との緊張関係をいかに調整するかという問題について,わが国がどのような態度を取ってきたかを明らかにするようにつとめた。結論を大まかにまとめれば,次のようになろう(一部は,中西ほか[2005]において公表済みである)。このような緊張関係が存在し得ることは早くから認識されていたものの,当初は,迅速な裁判という理念を一方的に放棄するという形での対応がなされた。その後,社会の圧力によって迅速な裁判の実現が無視できなくなったため,真実発見の要請との間で微妙な調整をする必要性が顕在化したが,なお,問題への本格的な対応はなされていない。 要するに,本研究の必要性を再確認したというのが,本年度の第1の研究実績であるが,それを受けて,諸外国,特にアメリカ合衆国における文献を渉猟するというのが,本年度に行った第2の作業である。その成果はいまだ公表には至っていないものの,研究の方向を固めることはできた。第1に,要求される裁判の正確性は,実体法の趣旨・意義によって異なり得る以上,問題となっている実体権毎に,要求される裁判の正確性を特定するという作業が必要である。第2に,要求される正確性を達成するのに必要にして十分な証拠法の規律を特定することが必要である。第3に,証拠調べを効率的に行うのに必要な開示法(ディスカヴァリ)の規律を特定することである。 もっとも,我々は,証拠法や開示法が国によって異なることを十分に知っているのであるから,以上の問に対して唯一の正解を探すという態度で臨むのは得策ではない。社会的,歴史的な環境によって最適な証拠法,開示法も異なり得ると考えるのが安全であり,次年度には,大陸法にも目を向けてより豊かな研究を行いたいと考えている。
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