Research Abstract |
真実に即した裁判を行うためには,両当事者の有する情報を開示させることが不可避であるが,情報開示の強制は同時に様々な副作用をもたらす。本年度の前半は,かかる副作用のうち秘密の漏洩問題について,特に知的財産訴訟に焦点をあてて調査した。その成果が,後掲「知財高裁設立後における知財訴訟の理論的課題」であり、知的財産訴訟に関する近時の法改正の,秘密漏洩問題に対する措置を客観的に跡付けた上で,改正法においても,秘密所持者は,情報開示の人的範囲を十分にコントロールできず,その結果,秘密漏洩の危険を十分に削減できていない可能性がある,ということを指摘した。また,この問題と関連する研究として,2005年11月18日,東京大学民事法判例研究会において,最決平成16年11月26日民集58巻8号2393頁に関する評釈を行った。破綻した保険会社の経営者責任を明らかにするため,金融庁長官の命を受けた保険管理人によって選任された調査委員会の調査報告書について提出義務が認められるか否かが問題となった事案である。提出を強制することにより生じる調査対象経営者のプライバシーに対する危険,調査の困難化と,真実発見との間の緊張関係をどう解きほぐすかに腐心した。その成果は,可能な限り早期に公表したいと考えている。さらに,年度の後半においては,山本和彦編『民事訴訟の過去・現在・未来』の書評を行った。同書は,わが国の民事訴訟について,真実発見がより強調される方向にある一方で,裁判所によるパターナリスティックな真実発見は将来的には後退する可能性があるという極めて興味深い診断を行っており,本研究にも密接に関連するものである。なお,本年度の中盤には,3週間ほどロンドンに滞在し,現地の刑事,民事の法廷を見学することで,実際の裁判実務についても新鮮な認識を得るに至った。その成果についても,可能な限り早期に公表する。
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