Research Abstract |
これまでの調査で甲虫類が林冠昆虫相の優占群の一つであることが分かってきており,今年度は,その多様性の実態解明を目指した。 モミ,イヌシデ,ブナ,ミズナラ,ヒメシャラなど冷温帯での調査サンプルを種レベルで解析した結果,一調査地の林冠から200〜300種の甲虫類が採集された。主要な分類群は,ゾウムシ科,ハネカクシ科,オサムシ科,コメツキムシ科で,この4科が種数的には全体の4割,個体数的には全体の6割を占めた。また,各種の食性を分析した結果,捕食者がもっとも多く,植食者,菌食者がそれに次ぐ結果となった。さらに,生息環境に関する分析では,樹上性種が4割,地上性種が2割,樹幹性でどちらとも言えない`ジェネラリスト'が3割となった。 これらの状況から判断すると,国内の林冠は,その場所のみで生活している林冠の`スペシャリスト'的種はほとんどおらず,林冠を一時的に利用する`ツーリスト'的種が多いという傾向が見られた。この結果は,林冠のスペシャリストが多いという,これまでの熱帯での調査結果とは異なるものである(日本鞘翅学会大会にて発表)。 来年度は,冷温帯林と熱帯林の中間に当たる暖温帯域での追加調査と,そのサンプルの種レベルでの分析,冷温帯林との結果の比較を通じ,国内林冠甲虫相の多様性を解明する。 なお,上記調査研究の過程で,日本産クチブトゾウムシ亜科に8新属22新種,ゾウムシ亜科に1新記録属2新種を見いだし記載した(研究発表:雑誌論文,図書参照)。
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