Research Abstract |
【目的】園芸活動が心身の健康と生活の質を向上させる目的で,多くの高齢者福祉施設で取り入れられている.また,高齢者が「生きがい」を感じ,社会とのつながりを持って主体的に生きるために,園芸作業が持つ社会的効果が注目されてきている.そこで本実験では,高齢者が取り組む園芸活動が,高齢者の身体や精神にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的とした. 【方法】南箕輪老人ホームの入居者10名(男性6名,女性4名)を対象に,施設内の畑で野菜栽培を行った.活動期間は2005年4月から10月とし,毎週1回午前中に行い,天候不順の時は翌週に延期した.各作業時間は約20分とし,その前後に測定を行った.血圧,心拍数を測定して身体的影響を調べた.また,唾液中sIgA(分泌型免疫グロブリンA)濃度を測定し,活動終了時にアンケートを実施して精神的影響を調べた. 【結果】17年度の結果を踏まえ,精神的効果を調べるとともに,園芸作業プログラムをたてて実施した結果,以下のような効果が得られた. 1.血圧は,4月の活動開始日に8人が正常値(2人が軽度の高血圧),10月の活動終了日には全員が正常値を示しており,活動を通して適正な血圧が維持された. 2.収縮期血圧は対照日の定植作業と,定植・間引き作業で有意に減少し,拡張期血圧は定植作業で有意に減少した.その他の作業では有意な変化はなかった.心拍数は,畝立て作業,管理(除草),収穫作業の作業後に有意に増加したが,いずれの増加も安全とされる範囲内であった. 3.全14回の作業のうち11回の作業でsIgA濃度は増加した.多くの園芸作業にリラックス効果が認められた. 4.sIgA濃度増減率はアンケート結果「楽しかった作業」と強い正の相関があり,「大変だった作業」と強い負の相関があった.これより精神的効果がsIgA濃度の変動に大きな影響を与えたことが示唆された.つまり,参加者にとって「楽しい」活動にすることは重要であることが示唆された. 5.園芸作業プログラムでは,作業中の会話が弾み笑い声も多く賑やかなものとなった.作業中音量も有意に大きくなった. 以上のことから,園芸活動は身体的負荷が少なく,リラックス効果があり,高齢者の健康維持に適度な運動であるといえる.
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