2016 Fiscal Year Annual Research Report
過大圧縮応力が軟骨組織に及ぼす影響の解明と軟骨疾患発症メカニズムの検証
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16F16057
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
牛田 多加志 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (50323522)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
HUANG WENJING 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | バイオメカニクス / 軟骨組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度では、モーター駆動ステージの上で位置補正機能付きの圧縮とイメージングシステムを設計し、過大応力で圧縮すると同時に,軟骨細胞をその同一性を保ちながら観察する機能を実装した。この装置は強力な圧縮モーター、正確な補正モーター、強固なステンレス製軟骨固定治具及びインデンター、高精度なreal-time計測機器から構成される。軟骨に過大応力を負荷し,軟骨細胞の応答をreal-time観察可能なシステムとして研究計画の実施のためには必要不可欠な装置である。 変形性膝関節症では、機械的・化学的ストレスが関与する細胞死が生ずることが知られている。本システムを使用し、圧縮ひずみ速度の違いによって表層から深層までの軟骨内死細胞の特異的な分布を定量化した。また、軟骨組織内の非均一な細胞死の分布を理解するために、ひずみ速度をコントロールしながら過大応力を負荷し,軟骨組織内の各層の局所ひずみをreal-timeで観察し、この局所ひずみと死細胞分布とを関連付けた。 これまでの研究から、過大応力を負荷することにより軟骨組織の軟骨細胞に細胞死を引き起こすことが分かっているが、異なるひずみ速度の衝撃(過大応力)を受けて、マトリックス構成成分と力学特性の異なる軟骨組織の表層、中層と深層の各層がどう応答するのか、機械的損傷がどこの層から始まるか、それがどのように拡散するのか、その明確なメカニズムが解明されていない。本研究は軟骨に異なるひずみ速度の過大応力を負荷し,死細胞の分布とひずみ分布などの関連するパラメータを具体的に捉えて、上記のメカニズムを解明していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に達成すべき内容が一部前後しているが、全体としてはおおむね順調に研究が進展した。当初の研究計画では、平成28年度において(1)圧縮とイメージングシステムの構築、(2)軟骨に生理的レベルの応力及び過大応力を負荷し、細胞外基質の変化を比較すること、および軟骨を圧縮しながら細胞死に関連する細胞の応答信号の強さを観察することを計画した。 (1)については、研究代表者が、細胞死を引き起こす過大応力のレベル、衝撃条件下のイメージング技術などの装置の要求仕様などを考慮しつつ、システムを構築することができた。このプロセスに時間を要したが、研究計画の遂行のためには必須のステップであった。 (2)については、研究分担者が,実験の難易度を考慮し、まず軟骨組織に過大応力を負荷し,細胞死の確認実験を行った。細胞死の分布と過大応力の負荷速度などの実験条件を絞り込みながら、並行してシステムの改良も実施した。この結果,細胞死をreal-time観察すること、実証することが可能になった。システムの構築とin vitro実験の両方ともに結果が出たことから、研究は順調に進展したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度では構築したシステムを用い、1)死細胞の不均一分布という現象の発生メカニズム、2)過大応力が表層から深層までの細胞外基質の構成(例えば、水の含有量など)に及ぼす影響、3)過大応力の作用によってそれぞれの層にある細胞および細胞核などの変形と細胞の機能変化、細胞死に至る上流のシグナル伝達経路を解析する研究を行う予定である。 従来の研究から、メカニカルストレスなどで大きく損傷されると、細胞死が進行するということが定性的に分かっていた。本研究は、real-timeイメージングなどの手法を用い、定量的に本メカニズムの解析を進めて行く予定である。最終的に1)から3)までの研究から得られた定量的結果に基づき、過大圧縮応力が軟骨組織に及ぼす影響を数学モデルで表現したいと考えている。 上記の研究を強く推進するために、研究代表者および研究分担者が主として実験を遂行すると同時に、研究室の他の研究者、学生と協同させ、グループ研究の形で研究を推進させる予定である。また、構築したシステムだけでなく、研究室の他の分析装置および大学の共用装置を使用して現象論から分子メカニズムの解明へ研究を深める。そして、平成28年に得られた知見や実験結果を含めた成果を国際会議や学術論文誌で積極的に発表する予定である。
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